日本が決勝トーナメントに進出したサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会を、熱く見守る男性がいる。大社高校サッカー部元コーチで、現在は横浜市内で教師を務める高橋奨さん(49)=出雲市大社町出身=だ。日本のボランチ遠藤航(29)を中学時代に教え、深い師弟関係をきっかけに、大社のサッカー少年たちとも接点が生じた。手塩にかけて育てた教え子の飛躍を願う。 (景山達登)
高橋さんは選手として大社高時代、全国高校選手権にGKとして出場。指導者としては8年間、母校でコーチを務め全国に導いた。
故郷を離れ、赴任先の横浜市立南戸塚中学校で入学してきた遠藤と出会った。性格は控え目でも洞察力に優れ、相手選手との駆け引きもうまかった。技術向上に貪欲でのみ込みも早く、指導したときにうまくいかない課題も次の練習で習得したという。注目されるのに時間はかからず、プロ入りしたが交流は続いた。
2020年7月、高橋さんの肺にがんが見つかり、約半年間の闘病生活となった。このときは遠藤が励ました。右肺を摘出し、抗がん剤治療を終え職場復帰したころ「体調はいかがですか? ぜひ見に来てください」と日韓戦へ招待。弟子が師匠の再出発を後押した。
今回のW杯も遠藤に招かれ1次リーグのドイツ戦を観戦。1点を追う後半26分すぎ、遠藤がボール奪取し懸命にプレスをかわし、また奪われても奪い返した。粘り強いプレーで味方を鼓舞。「選手にも会場にも、戦う意思を伝えるプレーだった」とたたえた。
試合前の会話でドイツのような強豪国を特別視する様子はなかった。「それが結果に表れたと思う」と教え子のたくましさに、日本サッカーの明るい未来を予感する。
高橋さんの母校・大社中学校に遠藤が贈った数十個のサッカーボールがある。「使わない球があるので」と打診され、高橋さんは「航と出会えたのも自身のルーツのおかげ」と喜んで贈ってもらった。後輩たちが自分の少年時代と同様、夢中で球を追う姿を想像すると感無量だ。「これもご縁。大社や島根から世界で羽ばたく選手が出てきてほしい」
6日の決勝トーナメントの初戦・クロアチア戦が近づく。遠藤には「相手エースの良さを消し、チームの良さを引き出してほしい。ゴールも見たい」と、高い期待を込める。