松江市立第二中学校前にある動物の形をした植栽
松江市立第二中学校前にある動物の形をした植栽

 松江市立第二中学校(松江市西川津町)前に、かわいらしい動物の形に刈り込まれたツゲの植栽がある。学校関係者によると、約10年前からあると言い、かわいい植栽は誰が手入れをしているのかを調べた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 植栽は松江二中の校門前から道路を挟んで向かい側の、学校の土地内にあり、ウサギやクマ、鳥といった動物やハート型のものなど計9体が並んでいる。高さは約170センチ(土台含む)とかなり大きいが、動物の形だとすぐに分かる。植栽は耳の穴まできちんと表現され、中には口の部分を刈り込むことで笑っているような表情にしたものもあった。

にっこり笑う表情をしたクマの植栽。独学でせん定したとは思えないほどの仕上がりだ
左が鳥で右がハートの植栽。題材は形が分かりやすく、かつ難しくなさそうなものを選んだという

 学校関係者によると、学校前は生徒以外にも地域住民がよく通るため、立ち止まって植栽を眺める人や写真を撮影する人が多く、人気の場所になっている。

 

 ▼「子どものために」独学でせん定

 学校に植栽のことを尋ねると、地域の高齢の女性が1人で定期的に手入れをしていることが分かった。学校を通して女性本人に連絡を取ると「ボランティアでやっていることなので」と、顔や名前を伏せることを条件に話を聞くことができた。

 女性はかつて小さい子どもと多く接する仕事に携わった。10年前、常緑樹をさまざまな形に刈り込んだ造形物「トピアリー」を知り、子どもたちを喜ばせようと、勤め先にあった植栽を見よう見まねでウサギの形に刈り込んだのが初めての作品。当時の松江二中の校長が、たまたま女性の職場を訪れた際、植栽を見て「かわいいからうち(学校)でもやってくれ」と言われたのが始まりだという。

枝切りばさみで植栽のせん定をする女性(松江二中提供)

 せん定については完全な独学で、頭の中に描いた動物の形に、ノコギリや枝切りばさみを使ってひたすら近づけていく。女性がせん定を始める前のツゲは全て球体だった。例えばウサギを作る場合は最初に首の部分を左右から刈り込み、頭部と体を区切った上で顔や耳、体の部分を少しずつ整えていく。刈りすぎると元に戻せないため、遠目で見てもバランスがおかしくないか、何度も確認する必要があるという。始めの頃は理想の形に刈り込み、葉が茂るまで丸1年かかったという。

校門よりも奥の方にあるツゲの木は、球体に整えられている。現在は動物の形になった植栽もかつてはこの形だった

 生徒のアイデアから生まれた作品もある。ハート型は、他の植栽を見た当時の生徒がせん定に挑戦した時のもので、未完成だったところを女性が「せっかくだから」と現在の形にきれいに仕上げた。生徒との合作とも言える。

 せん定をしていると、クマを作っているつもりなのに通行人から「これはキリンですか?」「タヌキかわいいですね」と予想外の声をかけられることもある。しかし、女性は「見る人が見えたものでいいんです」と笑った。

見る人によってはキリンだったりタヌキだったり…

 

 ▼年齢、体力的な問題で…

 女性は年間10回ほど、葉が茂り始める頃にせん定のために学校を訪れる。女性によると、ツゲは学校ができてから長年、ずっと根を張り続けているため「自然の木と同じで水やりといった手入れは必要ない。これまでせん定だけしかしていない」という。作業は授業の時間帯のため、生徒と触れ合うことはほとんどなかったが、女性の植栽は学校のホームページや、地域に配布される学校便りでたびたび紹介される人気ぶりだった。

地域に配布される「嵩の杜学園だより」の2022年10月号に載った、女性の植栽についての紹介

 ただ、女性はせん定を2022年度限りで引退する意向だという。体力的な問題だといい、女性は「十分過ぎるほど自由に楽しくやらせてもらった。植栽は好きに使ってほしい」と満足感をにじませた。

 せん定には知識と技術が必要で、学校は後継者を探している状況。根本登三男校長は女性の引退を惜しみ「学校で最も目に触れる玄関口に、長年にわたってすてきな物を整備してくださり、とても感謝している。生徒からも人気だった」と感謝を口にした。

 

 学校前に並ぶユニークな植栽は、地域の女性1人が生徒のために、長年ボランティアで続けてきた作品だった。女性の引退後もかわいい植栽に、登下校する生徒を見守り続けてほしい。