伊勢神宮内宮の参拝に向かう岸田首相(中央)=4日午後、三重県伊勢市
伊勢神宮内宮の参拝に向かう岸田首相(中央)=4日午後、三重県伊勢市

 国際社会が分断され、「力」に「力」で対抗する動きが広がる中、今年は「平和国家」を掲げてきた日本の外交・安全保障政策の針路が問われる重要な一年となる。

 岸田文雄首相は「力による現状変更の試み」を批判し、多国間の協力による国際協調への取り組みをアピールする。だが、昨年12月に改定した「国家安全保障戦略」は、中国や北朝鮮の軍備増強を念頭に、日本の防衛力を大幅に強化し、日米同盟を深化させる方針を明確にした。力に頼る対抗が実態だと言えよう。

 しかし、資源が乏しく他国との協調が不可欠な日本が目指すべきなのは、地域の平和と安定に向けて近隣諸国との対話を進め、分断を乗り越える国際秩序を構築していく道ではないか。

 日本は今年、先進7カ国(G7)の議長国と、国連安全保障理事会の非常任理事国という二つの重要な役割を担う。5月には戦争被爆地・広島でG7広島サミットを開催する。国際社会を主導できる立場をどう生かすのか。日米同盟を基軸としながらも、米国一辺倒に偏らない主体的な戦略が問われよう。

 岸田首相は今年の外交を欧米訪問から始動させ、13日にワシントンでバイデン大統領と会談する。防衛力を強化する新しい国家安保戦略を説明し、日米同盟強化を確認するのが狙いだろう。

 国家安保戦略など安保関連文書は、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%と大幅に増やし、他国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に踏み込んだ。反撃能力で念頭に置くのは中国と北朝鮮だ。台湾有事への警戒も示し、南西諸島の防衛力強化を重点的に進める。

 さらに日米同盟の一層の強化と、日米韓の連携、インド太平洋地域での「同志国」との協力を打ち出した。米国を中心とする「ブロック化」形成とも言えよう。中国や北朝鮮は「アジア版北大西洋条約機構(NATO)構築」に警戒を示す。

 岸田首相は昨年11月の習近平・中国国家主席との首脳会談で「建設的で安定的な関係構築」を確認した。中国の軍備増強は周辺国にとって深刻な懸念だ。しかし、その中でも対話によって危機を回避し、互いが利益を得る外交を進めるべきだ。

 首相は9日からフランス、イタリア、英国の欧州3カ国とカナダも訪問する。広島サミットに向けた地ならしだ。

 安保理の非常任理事国は6年ぶりで2年間務める。常任理事国のロシアによる国際法違反のウクライナ侵攻という事態で、安保理の機能不全が指摘される。国連の機能をどう立て直すのか。指導力が問われよう。

 首相は広島サミットで「核兵器のない世界に向けた大きな目標への歩みを世界に発信したい」と強調する。今月は安保理の持ち回り議長国を務め、12日に「法の支配」をテーマに閣僚級の公開討論会をニューヨークで開催する。こうした主張が説得力を持つのは「平和国家」の立場を堅持してこそではないか。

 国家安保戦略は安保政策を抜本的に転換しながらも「平和国家として専守防衛に徹する」と言明。「他国との共存共栄、多国間の協力を重視する」と「多国間主義」を強調している。この基本原則を忘れてはならない。国際協調を再構築する外交構想を求めたい。