国会の責務は何か。法律の制定と同時に、時の政府の権力行使である行政執行の在り方を監視し、ただすべきはただすことだ。岸田文雄首相が日本の針路に関わる重大な政策転換を相次いで打ち出した中で、国会は存在意義が懸かった正念場を迎えているといえよう。
通常国会が23日に開会する。会期は6月21日までの150日間。岸田首相の施政方針演説を受けた与野党の代表質問から論戦がスタートする。
最大の焦点は、中国や北朝鮮の軍備拡張に対処するとして、2023年度から5年間で約43兆円を注ぎ込む防衛力整備計画と、その財源を確保するための増税の是非だ。
初年度の23年度予算案には、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に向けた米国製巡航ミサイルの取得費が含まれている。
看過できないのは、計画の内容もさることながら、議論の過程である。
岸田首相が今の計画の1・5倍超になる大幅な増額や1兆円強を増税で賄う考えを表明したのは、先の臨時国会が最終盤に入ってからだ。自民、公明両党の与党協議を経た最終決定は国会閉会後の昨年12月16日で、国会の関与は皆無だった。
他国の武力行使に対する抑止効果があるとする反撃能力の保有に関しては、一部野党も賛同している。ただ過去の戦争への反省を踏まえた専守防衛の理念から逸脱し、軍拡競争に陥る懸念は消えない。与野党は賛否にかかわらず、反撃能力保有の必要性をはじめとして、国民の判断材料になるような論議を政府との間で尽くしてもらいたい。
防衛増税の開始時期について政府は「24年以降の適切な時期」としているが、共同通信の世論調査で64・9%が「支持しない」と答え、立憲民主党など野党もそろって反対の立場だ。
岸田首相がバイデン米大統領との会談で防衛強化策を巡り支持を取り付けたとはいえ、既成事実化を図るのは受け入れられない。政府、与党が予算案や関連法案の国会審議を拙速に進めるようであれば、「言論の府」をおとしめることになると肝に銘ずるべきだ。
政府は東京電力福島第1原発事故以後、「原発依存度を可能な限り低減する」としてきた原子力政策も変更した。
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、岸田首相は昨年8月、原発活用の検討を指示していたが、主に政府内で議論が進行。運転期間の延長や次世代型原発への建て替え方針を決めたのは12月22日で、これも国会閉会中だった。
「首相には平時の宰相と有事の宰相がある。あなたは有事の宰相だ」。岸田首相は昨年暮れ、自民党の麻生太郎副総裁からそう評されたと紹介した。だが「有事の宰相」であっても、国会を軽視するかのような政治手法が許されないのは当然だ。
一方、行政監視の観点からは、従来に増して野党の役割が大きい。安全保障も原子力政策も国民の命と暮らしに直結するからだ。主張に隔たりはあっても、審議の徹底では共闘を貫いてほしい。岸田首相が施策内容や財源も曖昧なまま年初に打ち出した「異次元の少子化対策」も同様だ。
安倍晋三政権以来、威信低下が指摘される国会を、再生できるかどうかの瀬戸際にあることを与野党とも自覚し、民意を踏まえた説得力ある論戦を展開しなくてはならない。