高齢者を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種を巡って、各地でトラブルが相次いでいる。多くの自治体が電話かウェブで事前予約を申し込む制度を導入しているが、電話会社が通信規制を表明するほど回線が混み合い、自治体のサイトにもつながりにくい状態となっている。
愛知県西尾市では、副市長が大手薬局の経営者夫婦に接種の優先権を与えて謝罪する不正が起きた。システム障害の発生により、東京都目黒区や大阪府和泉市といった複数の自治体では予約が停止する騒ぎもあった。
島根、鳥取両県のほとんどの自治体も、電話とウェブによる予約方法を採用する。松江市や米子市など既に予約が始まった自治体では、電話回線がパンクし、多くの人が初日の予約を諦めざるを得ない事態となった。個別接種を受け入れる医療機関にも電話や直接訪問が相次ぎ、通常の診療に支障が出るほどになっているという。
変異ウイルスが起因の第4波が猛威を振るい、患者や死者が急増している。9割強という有効性を持ったワクチンを「われ先に」という心理が働くのは当然の流れだろう。トラブルや混乱が起きることは、最初から予想できたのではないか。
公平性の観点から自治体は先着順としているが、早い物勝ちが果たして公平と言えるのか疑問だ。パソコンに不慣れな高齢者にとって、ウェブでの申し込みはハードルが高い。息子や孫といった家族に代理で依頼したという話もよく聞くが、頼める人がいない世帯はすべがなくなってしまう。電話での申し込みも、仕事や用事で受け付け開始と同時に連絡できない人は後回しにならざるを得ない。また、手元に携帯電話が複数ある人や、複数人の動員が可能な人が必然的に有利となる。
高齢者が「65歳以上」というかなりの大枠でくくられているのもどうだろうか。新型コロナは基礎疾患がある人や高齢になるほど重症化リスクが高いという報告があり、予約ができずに戸惑う人ほど、こうしたリスクを抱えている恐れが高いのではないか。細かい区分を設ける制度設計は自治体側の労力では手に負えないとしても、例えば出雲市の個別接種のように高齢者施設入所者に続いて75歳以上、65歳以上という大まかな順序を設けた方が、予約やリスクを分散できるだろう。
政府は、ワクチン供給を巡る方針で二転三転して国民に不安を与えているが、6月中に高齢者全員分のワクチンを各地に配送するめどを立て、7月中に接種を終える目標を掲げる。両県によると、予約が取れなかった高齢者も確実にワクチンが行き渡る見込みだといい、必要以上に焦ることはない。
焦点となるのが、続く65歳未満の国民への接種だ。まず、基礎疾患のある人と一般の人をどう線引きするのか。診断書が必要なのか、血糖値が高いだけでいいのか、明確な指針を急ぎ示すべきだ。「先着順」という予約方法も見直さなければならない。同じトラブルを二度起こすわけにはいかない。予約の手間やトラブルを避けるため、最初から自治体が抽選で「当選者」を決めてもいいのではないか。
ワクチン製造が外国頼みで、本数が限られるのが根本的な問題だ。わずかな副反応を恐れるあまり、開発が後退した製薬業界の現状は、国策として薬事行政が打開するしかないだろう。