政府は新型コロナウイルス緊急事態宣言の発令対象に北海道、岡山、広島3道県の追加を決めた。宣言に準じた「まん延防止等重点措置」にとどめようとした当初提案は、専門家から強い対策を求められて取り下げた。
前例のない方針転換は政府の現状認識の甘さ、危機感不足を露呈。従来の6都府県に合わせ約2週間後の5月末を期限としたが、短期間に感染拡大防止の結果を出すのは容易でないだろう。
菅義偉首相はコロナ対策について「専門家の理解を得て政府として判断する」との基本姿勢を示してきた。その意味では、対策効果を上げるためメンツにこだわらず「君子豹変(ひょうへん)」したことは前向きに評価していい。
だが北海道などは大型連休直後から感染拡大の危機を専門家が指摘し、直近では地元自治体も緊急事態宣言を求める声を上げた。それを把握しながら政府はいったん見送る判断をし、転換を迫られた。なるべく事を小さく収めようとして状況判断を誤ることはなかったか。経緯をきちんと検証し、今後に生かしてほしい。
北海道は1日当たりの新規感染者が4月半ばに60人程度だったが、1カ月で700人超となり、その大半を札幌市が占める。5月上旬から既に緊急事態宣言の目安であるステージ4(爆発的感染拡大)の状況。連休の行楽や帰省で人出が増えたのが原因とみるべきだ。
岡山県も指標全てがステージ4に達している。病床使用率7割を超え、岡山市は1週間の人口当たりの新規感染者数が大阪府を上回る。広島県も病床使用率6割などステージ4の状況。同県は「緊急事態宣言が必要」(湯崎英彦知事)と強調したが、政府は即応できなかった。
一方、北海道の鈴木直道知事は道内が広大であることを理由に札幌市限定で宣言を発令するよう要望。しかし政府は「慎重な検討が必要」(加藤勝信官房長官)と否定的だった。宣言は都道府県単位で発令するもので、市町村単位なら重点措置がふさわしいと法律の条文にとらわれた形式的判断に流れたと批判されても仕方あるまい。
宣言を4都府県で延長し、愛知、福岡両県の追加を決めた7日にも、ステージで判断すれば緊急事態宣言がふさわしいと専門家が北海道、岡山、広島への発令を求めたにもかかわらず、政府が見送った経緯がある。厚生労働省の専門家組織も最近の会合で「時間がたてば事態は深刻になる」などと3道県の厳しい状況を政府に伝えていた。
これらに加え、関係自治体の声も踏まえて首相と関係閣僚は前夜まで協議したはずだが、首相は「複数の県からまん延防止等重点措置について要請が来ている」と緊急事態宣言は全く頭の中にない様子だった。いったいどのような検討をしたのか。首相は国民に説明責任を果たすべきだ。
ほぼ全国的に90%以上が感染力が強い「N501Y変異」を持つウイルスに置き換わったとされる。インド変異株という新たな脅威も迫っている。大型連休後、地方への感染拡大が鮮明になった背景にはこれらがあり、今後は従来の対策が通用しないとの指摘もある。
東京、関西も収束には程遠い。にもかかわらず対策効果がようやく表れる2週間で宣言解除できるのか。正念場はさらに続くとの覚悟が必要だ。