東京五輪・パラリンピックを巡る入札談合事件で、東京地検特捜部が大会組織委員会や広告最大手電通の元幹部らを逮捕した。発注者である組織委側が談合を主導し、電通側が一体となって実行したと判断した。
多数の社員を組織委に出向させていた電通は発注者側でもあり、受注者側でもあるという利益相反の立場だった。もとよりこれでは「公正な競争」など望むべくもなかったと言わざるを得ない。
逮捕された組織委の元幹部らは「大会成功のための調整だった」と言うのだろうが、東京大会には8千億円近い公費が投入されたことを忘れてはならない。
談合は適正な発注を害し、業者に不当な高値受注を許す犯罪であり、被害者は納税者だと言える。組織委側主導の詳細や談合企業が得た不当な利益幅の特定など、徹底して捜査のメスを入れてもらいたい。
独禁法違反容疑で逮捕されたのは、組織委大会運営局元次長と電通スポーツ部門元幹部ら4人。競技運営の課題などを洗い出すテスト大会の計画立案業務などに関し2018年5~8月に26件実施された入札の大半で談合した疑いが持たれている。
その結果、落札したのは電通など数社で契約総額は約5億円。各テスト大会、本大会の運営も随意契約で請け負っており、特捜部はその契約総額約400億円も同容疑で立件した。
元次長の指示で、電通側が大会運営実績などから各競技の受注候補企業の一覧表を作成。これを基に談合したとされ、実際の落札企業はほぼ表のとおりだったそうだ。
入札26件のうちほぼ半数が1社応札で、元次長は参加希望の企業に、メールで断念するように働きかけたこともあった。典型的な「発注者談合」と言えるだろう。
背景には国際オリンピック委員会(IOC)がテスト大会の順調な開催について組織委に懸念を示したことがあったようだ。競技の中には企業がやりたがらない種目もあり、元次長は「すべての競技で担当企業を決められるか心配になった」との不安を漏らしていた。
だからといって談合が許されるはずがない。
一覧表作成など電通抜きでは談合は困難だったはずだ。先の汚職事件でもスポンサー企業選定を電通が牛耳り、同社出身の組織委元理事が古巣への影響力を背景に企業との癒着を深めた構図が浮上している。組織委の極端な「電通依存」が、両事件に共通する不正の温床と言わざるを得ない。
組織委最終報告によると、東京大会の開催経費は1兆4238億円。55%に当たる7834億円が東京都や国の負担だ。
都は談合事件が発覚後、調査チームを設置したが、調査は進んでいない。組織委の残務処理に当たる清算法人に、非公表の入札経過情報などを要求しても提供されなかったという。
清算法人は清算が終了すれば消滅する。いったい誰が責任をもって検証し、再発防止策を講じるのか。問われているのは、日本の五輪開催の在り方だ。国が前面に出て、対応するしかあるまい。
特定企業への極端な依存を排し組織委内部の意思決定プロセスを透明化する仕組みなどの構築を検討すべきだ。それができないなら、もう五輪の日本開催はないぐらいの覚悟が必要だ。