7日、一般教書演説するバイデン米大統領=ワシントン(ロイター=共同)
7日、一般教書演説するバイデン米大統領=ワシントン(ロイター=共同)

 バイデン米大統領の一般教書演説は、米国が2024年の次期大統領選に向けて激しい政争の季節に入った現実を浮き彫りにした。国の方向や政策を競うのは歓迎する。だがあまりに早い選挙戦ムードの高まりは、個々の政策が政争の材料とされ政権の能力を損なう恐れがある。

 米国は超大国として世界の安定に責任を持つ。その外交・安全保障や貿易政策は国内政局の影響を受けるべきではない。米国の分断が対外政策をゆがめぬよう切実に望む。

 演説でバイデン氏は1200万人の雇用を創出したと実績を誇示、「仕事をやり遂げよう」と再選への意欲を示すとともに、共和党のトランプ前政権の責任を追及した。

 議場の共和党議員は「うそつき」とやじを飛ばし、バイデン氏が激しく反論した。一般教書演説は、議会が大統領を年に1回招き、その政策を敬意をもって聞くのが慣例だが、深刻な党派対立を露呈した。

 米メディアでは次期大統領選の行方を占う報道が急増している。既に出馬表明をしたトランプ氏はバイデン氏の演説にぶつけて「本当の一般教書」とするビデオ演説を発表。共和党ではトランプ氏の対抗馬としてデサンティス・フロリダ州知事らの名が挙がる。

 バイデン政権の2年間は、成功と失敗が交錯する。インフラ投資法や半導体投資法、インフレ抑制法など大型の財政出動法は功績と言える。

 ウクライナ戦争で北大西洋条約機構(NATO)や先進7カ国(G7)が結束する形で、ウクライナ支援やロシア制裁を始めたことも成果だろう。

 一方で就任の際に掲げた国内の結束は実現できず、インフレも依然国民は高水準と受け止めている。不法移民の流入問題や銃犯罪は悪化した。

 一昨年夏のアフガニスタンからの突然の撤退で同国は混乱に陥り、ロシアのウクライナ侵攻を抑止できなかったという負の評価もついて回る。共和党は多数派を奪った下院を舞台に、政権高官やバイデン氏の家族の疑惑調査に乗り出す方針だ。

 国民のバイデン氏への評価は厳しい。今月初旬に発表された世論調査では不支持率は53%で、インフレを理由に経済運営では58%が支持できないと答えている。

 懸念されるのは中国との関係だ。バイデン氏は中国とは「衝突でなく競争を望む」と語るが、中国から飛行した気球への対応の遅れから共和党は「弱腰」と批判を強め、共和党の反対演説を行ったサンダース・アーカンソー州知事は「手ごわい中国には立ち向かわない」と政権を非難した。

 ウクライナ戦争でも、共和党は「政権は米国よりウクライナを優先している」と攻撃する思惑だ。この足並みの乱れはロシアのプーチン大統領には願ってもない展開だ。貿易政策でも保護主義からの脱却は難しい。

 バイデン氏は近く再選出馬を正式に表明する見込みだが、民主党内でも80歳と高齢のバイデン氏に代わって若手の登場を望む声が広がっている。

 この難しい状況でバイデン氏は批判封じのために中国には必要以上に強硬な姿勢をとり、ウクライナ戦争では、支援拡充にちゅうちょする事態が予想される。バイデン氏は自身の選挙や国内政局に左右されずに、超大国らしい堂々とした対外政策を遂行してほしい。