生息分布を広げるニホンジカ(県中山間地域研究センター提供)
生息分布を広げるニホンジカ(県中山間地域研究センター提供)

 島根県側の中国山地でニホンジカの生息地域が拡大している。広島県側から邑南、飯南両町を中心に広がり、樹齢が若い木を食べる被害が顕在化している。将来的には島根県が掲げる循環型林業や治山に影響を及ぼす可能性があり、関係者は捕獲強化に力を入れる。

 中国山地のシカは明治末期に姿を消したとみられていた。しかし近年、遺伝子分析によって広島側から島根側へと生息域を広げていることが分かった。

 島根県によると、島根側の捕獲頭数は2008年度の21頭から16年度に261頭となり、19年度は411頭に増えた。

 車から光を当てて見える範囲のシカを数える調査では、邑南町の瑞穂地域で12年に0・5頭だったのが、今年3月には3・45頭と7倍近くになった。

 50センチ以上の積雪が30日を超えると死ぬ個体が出始めるとの調査があり、中長期的に積雪量が減っている中国山地はシカが生息しやすい環境になっている可能性があるという。

 樹木への被害は顕在化しつつある。林野庁によると19年度の野生鳥獣による森林被害の約7割を占めるなど、全国の森林でシカ被害は深刻化。土壌の流出を防ぐ役割がある下層植生がシカの食害によってなくなった地域もある。

 邑南町では20年度、ヒノキの幼木が食べられるなどの林産物への被害額が85万円だった。飯南町内でも同年、初めて幼木の食害が確認されており、個体数の増加によって被害拡大の懸念は強まる。

 県内では現在、スギとヒノキが本格的な利用期を迎えている。伐採後は同じ場所に植えられるため、若返りを迎える時期にシカの食害が増えると、木が育ちにくくなり、将来的な循環型林業に影響を及ぼす可能性もある。県中山間地域研究センターの大国隆二鳥獣対策科長は「捕獲の対策を強化し生息数が増えないように取り組みたい」と話した。(曽田元気)