米国のミュージシャンで弦楽器の達人、デビッド・リンドレーが亡くなった。78歳だった。仙人のような長髪の独特の風貌で、ギターやバンジョー、マンドリン、フィドルなどを自在に操った。さまざまなアーティストと共演し大きな足跡を残した。

代表的な仕事相手はシンガー・ソングライターのジャクソン・ブラウン(JB)だった。JBの1974年のサード・アルバム「レイト・フォー・ザ・スカイ」は、誰にも覚えがあるであろう青春時代の孤独や不安を(歌詞が分からなくても)思い起こさせる70年代フォークロックの傑作だ。この作品でJBの優しく繊細な歌声を引き立て、アルバムの情趣を高めるのがリンドレーのギター。オープニングを飾るタイトル曲で彼のギターが醸し出す哀感は、アルバム全体の雰囲気を印象づける。リンドレーの存在なしに、この傑作は生まれなかった。

リンドレーはJBの複数のアルバムで演奏していて、1977年のライブ作品「孤独なランナー」でも存在感を発揮している。この作品のハイライトは9曲目「ザ・ロード・アウト」からラストの「ステイ」へとメドレーで幕を閉じるところ。「ステイ」ではJBの歌声から、女性ボーカル(82年に角川映画「汚れた英雄」のテーマ曲を歌ったローズマリー・バトラー)の歌声へと移り、さらに性別不明の高い歌声が響く。アイ・ウォンチュー・ステ~~~イ・ジャスタ・リルビトロンガー・オー・プリーズ・プレーズ・ステイ…と歌うその声がデビッド・リンドレーであり、何とも味のあるファルセットボイス。再びJBの歌声に戻ってコンサートが終わる、感動的なフィナーレを演出している。声の主を随分後になって知り、大いに驚いたものだ。

同じく弦楽器の達人、ライ・クーダー(RC)との共演も多かった。RCのソロアルバム「JAZZ」(1978年)や「バップ・ドロップ・デラックス」(79年)では数多くの曲にクレジットがあり、ギターやマンドリンを奏でた。RCが手がけた映画のサウンドトラックのうち「ロング・ライダーズ」(80年)や「パリ、テキサス」(84年)でも演奏。2人で来日公演もしている。
数々のアーティストをサポートする一方で自ら歌って主役になった。1980年代にはバンド「エル・ラーヨ・エキス」を率い、そしてソロとしてもアルバムをリリース。ソロ4作目に当たる「Mr.デイヴ」(85年)をかつて聴いた時、多彩な弦楽器を駆使した癖の強い音楽だろうとの予想に反し、レゲエをベースにしたオーソドックスなソフトロックだったことに意外な印象を受けたことを思い出した。
3月下旬にジャクソン・ブラウンが来日公演をすると知って、公演に行けるわけではないが、JBの過去のアルバムを最近聴いていた。そんな中で届いたデビッド・リンドレーの訃報。いくつもの名作誕生に重要な役割を果たした功績を改めて思った。
(洋)