死産した双子の遺体を自室に放置したとして死体遺棄罪に問われた元技能実習生のベトナム人女性について、最高裁は一、二審の有罪判決を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した。女性は「妊娠を明かせば帰国させられる」と考え、誰にも相談せず実習先の寮で出産。二重にした段ボール箱に入れて封をし、自室の棚の上に置いたとされる。
遺体はタオルで包まれ、おわびの言葉などを書いた手紙も添えられていたという。判決で最高裁は「他者が発見するのを困難な状況にした」としながらも「その場所や梱包(こんぽう)方法などに照らし、習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められない」と指摘。「遺棄に当たらない」と述べた。
過去には、中国人の実習生が妊娠を理由に帰国を強要され、空港に無理やり連れて行かれて流産したこともあった。実習生の半数以上は多額の借金をして本国の送り出し機関やブローカーに手数料を払って来日。解雇されたら借金を返せなくなるため、理不尽な扱いを受けても助けを求めにくい。長時間労働や賃金不払いも後を絶たない。
創設から30年の技能実習制度は「人権侵害の温床」と内外で批判を浴びている。労働力不足を背景に4年前、導入された特定技能制度とともに見直しの議論が政府の有識者会議で進められているが、個人の尊厳と人権を守るために実効性のある制度改正が不可欠だ。
逆転無罪となったベトナム人女性は2018年8月に来日。熊本県の農家で実習中の20年夏ごろ妊娠に気付いたが、それを知られたら帰国させられると恐れ、誰にも言い出せずに孤立した末、20年11月に死産に至った。
一審熊本地裁は懲役8月、執行猶予3年の判決を言い渡したが、1人で思い詰め出産した経緯を巡り「同情の余地が十分にある」とした。その上で「十分サポートする制度もなく、厳しい環境」と実習生が置かれた過酷な状況にも言及した。
その後、二審福岡高裁判決は出産に至るまでの事情を酌み、一審判決を破棄して懲役3月、執行猶予2年としていた。
妊娠を隠さなければならないと女性が思い詰めた背景には、技能実習制度の構造的な問題がある。発展途上国への技術移転や人材育成による「国際貢献」を掲げてスタートしたが、実際には実習生の多くが「安価な労働力」として扱われ、長時間労働などを強いられてきた。その上、技術習得を理由に家族帯同や転職は認められていない。
経済界からの強い要請で19年4月には、外国人労働者の受け入れを拡大する特定技能制度が新設され、条件付きで転職が可能になった。ごく限られた業種では、家族帯同や在留期間の延長も認められる。実習生は一定の実習経験を積めば無試験で特定技能に移れる。
ところが民間の支援団体によると、この制度を巡っても「妊娠したら退職を迫られた」「転職の手続きを放置された」といった相談が昨年、大幅に増えた。来日時の借金などにより外国人労働者が弱い立場に置かれる状況は変わっていない。
実習制度を特定技能制度に一本化する提案もあるが、まずベトナムなどで高額な手数料や保証金を要求する送り出し機関や悪質なブローカーを排除しなくてはならない。そのために政府は送り出し国に対する働きかけを粘り強く行うべきだ。