モスクワ郊外で握手するロシアのプーチン大統領(右)とベラルーシのルカシェンコ大統領=2月17日(ロイター=共同)
モスクワ郊外で握手するロシアのプーチン大統領(右)とベラルーシのルカシェンコ大統領=2月17日(ロイター=共同)

 ロシアのプーチン大統領が隣国ベラルーシに戦術核を配備すると公表した。ベラルーシはウクライナ侵攻の拠点であり、戦場に近接する。ベラルーシが加盟する核拡散防止条約(NPT)の精神にも反する。新戦略兵器削減条約(新START)履行停止に続き「核のどう喝」を一段と強める暴挙であり、容認できない。

 軍事的観点に照らせば、ともにウクライナに隣接するロシアからベラルーシに核兵器を移したところで、すぐに使用の危機が切迫するかどうかは議論の余地があるだろう。プーチン氏には核使用をためらわない姿勢を見せつけることで、ウクライナへの軍事支援を鈍らせ、支援各国の足並みを乱す狙いがあるに違いない。脅しに動揺せず冷静に対処したい。

 ことしの先進7カ国(G7)首脳会議を被爆地の広島で主催する日本の役割は重大だ。キーウを訪問して、侵略を容認しない姿勢を示した岸田文雄首相の指導力と調整手腕が問われる。

 ロシア軍はウクライナ東部で支配地域の大幅な拡大に成功していない。民間の軍事組織と正規軍の対立や、新たに動員された兵士の士気や練度の低さに加え、兵器や弾薬の不足が指摘される。

 これに対してウクライナは、米国やドイツなどから新たに戦車などの供与を受けつつある。スロバキアは旧ソ連製戦闘機ミグ29の供与に踏み切った。ウクライナにとっては兵器供与の規模は決して十分ではないが、孤立を深めるロシアには深刻な脅威に映るらしい。

 プーチン氏が「核のどう喝」を一段と強めた背景には、各国の軍事支援を受けたウクライナが反撃に転じた場合、ロシア軍が後退を余儀なくされる事態への危機感があるとみられる。

 米国などはロシアを過度に刺激しないために、兵器の質と量を調整している。一方でポーランドやバルト諸国は、軍事支援に、より積極的だ。支援国同士の協調が大切だ。

 ロシアによる核兵器の使用を抑止する重要性は自明である。あらゆる手段を用いて惨禍を予防しなければならない。だが、ここで支援と結束を緩めては断じてならない。一方的な侵略戦争を容認することになるだけではない。これまでの膨大な支援が無に帰す恐れさえあるからだ。

 1991年末にソ連が崩壊した際、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに核兵器が残った。これらをロシアに集めて一元管理することで危険な核拡散を回避する必要があった。核兵器を放棄するベラルーシやウクライナなどの安全を核保有国の米国、英国、ロシアが保障したのが、94年のブダペスト覚書である。

 ロシアは2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合したことで、この覚書を破り、当時のG8から追放された。そのロシアが今回、ベラルーシに戦術核を配備することは、30年余り前のソ連崩壊時まで歴史の流れを逆行させる愚かな行為でもある。

 ベラルーシでは近年、ルカシェンコ大統領の強権支配に対する野党勢力の街頭行動が激化した経緯がある。ルカシェンコ氏は政権存続のためロシアに保護を求めた。だが公正な選挙が期待できない以上、国民の不満が再び危険な形で爆発するかもしれない。そのような国に核兵器を置いてはならない。