東京・霞が関の文化庁が中央省庁で初めて地方移転し、京都市での業務を始めた。5月15日の本格稼働までに対象部署が移り終える。その段階で職員の約7割、約390人が京都拠点となる。これを契機に文化庁長官の下に「食文化推進本部」「文化観光推進本部」などが新設された。
京都は千年以上、日本の文化を育み、華道や茶道などが今も根付いている。職員は東京とは異なる環境で仕事できる。この経験を文化や伝統の維持・発展、観光への活用など新たな政策の展開につなげてほしい。
京都には芸術系の大学、博物館、美術館が多い。アニメ、ゲームなどの産業も盛んだ。アートとテクノロジーを融合させた産業の創造にも取り組んでいる。文化庁と自治体が協力して新しい文化や産業づくりにもチャレンジしたい。
この移転は安倍政権が2014年12月に始めた地方創生の目玉策である。問題はこれが東京一極集中の是正策として効果があるかだ。
是正策としては京都府が文化庁、他の道府県が消費者庁、特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁などの移転を要望した。政府と地方側の調整を経て、文化庁移転のほか、消費者庁は徳島県にオフィス、総務省統計局は和歌山県に統計の利活用センターを置く。研究・研修機関の地方拠点開設なども進められた。
今後、これらの施策による移転先の人口増加や経済活性化への貢献について早急に検証すると同時に、組織の機能維持やコスト面などでの問題点の洗い出しも急ぐよう提案する。
22年の人口移動報告を見ると、東京圏への転入者は転出者よりも10万人近く多い。転入超過は東京圏、大阪府や福岡県など11都府県だった。リモートワークや子育てを理由にした地方移住が注目されるが、進学や就職のため都市に出る若者の数を相殺するには程遠く、危機的な状況と言える。
さらに22年の出生数は80万人を切った。死亡数は過去最多となり、人口は年間で80万人近く減った。特に地方は、人口流出と合わせた急速な人口減少に直面している。
この状況下で岸田政権は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を決定、27年度に地方と東京圏との転出・転入を均衡させるとした。現実には安倍政権時代の目標の先延ばしであり、現在の政策メニューでは達成は厳しいと分析できる。
にもかかわらず政府は、デジタル人材の育成のため東京23区にある大学の定員を増やす方針を示した。地方創生で導入した大学定員規制の緩和となる。東京以外の大学でも育成はできるはずだ。
中央省庁の移転が難しい理由として他省庁との予算折衝、国会議員への政策説明のような対面業務の必要性が挙げられる。リモートでより効率的に進めるため、議員側の協力も得て仕事の方法を見直すことは可能だ。
検証結果を踏まえ政府には、関係機関に加え企業、大学の地方移転などをてこ入れ策として議論するよう求める。大規模地震で被災した首都圏を補完する役割を果たす都市を用意すること、国の地方出先機関を強化することも不可欠である。
地方での人口減少を少しでも緩和し、大災害の発生に備えて国土を強靱化(きょうじんか)するためにも、岸田政権は新たな集中是正策を打ち出すべきだ。