日本が主導した環太平洋連携協定(TPP)に英国が新規加盟することになった。参加国は12カ国になり、世界の12%を占めていた国内総生産(GDP)の合計も15%に上昇する。アジア、太平洋を中心とした自由貿易の枠組みが欧州へと拡大することを歓迎したい。
米中対立の激化、ロシアによるウクライナ侵攻で政治も経済もグローバル化が後退、経済安全保障の観点から中国を除外するサプライチェーン(供給網)の再編などが急速に進んでいる。
保護主義の台頭を背景に原材料調達や製造、販売といった経済活動が大きく変容、世界の分断が加速する中で、貿易や投資ルールなどで高い水準を誇るTPPが拡大する意義は決して小さくない。英国の加盟を、自由貿易を再興する契機ととらえ、日本は離脱した米国に対する復帰の働きかけを強化したい。
自由貿易の推進は本来、世界貿易機関(WTO)の役割だが、機能不全で著しく影響力が低下してしまっている。TPPはさまざまな経済協定の中でも、最も高い水準の自由化を志向しており、自由貿易推進の中核となったと言ってもいいだろう。主導した日本には国際社会からの期待も大きい。
参加11カ国は3月31日の閣僚会合で英国の加盟に合意、7月の定例閣僚会合で承認する見通しだ。TPPは農産品や工業製品の関税の撤廃・削減のほか、電子商取引(EC)や知的財産などの広範囲でルールを定め、自由貿易を推進する枠組みである。加盟が発効すれば英国は参加各国と貿易拡大に向け動き始める。
日本と英国は既に2国間で「経済連携協定」(EPA)を結んでおり、工業や産業の分野では大きな変化はないとみられる。一方、日本から英国に輸出する精米の関税は撤廃されることになり、和食ブームの中、コメ輸出に弾みがつくとの期待も高まっている。
英国の狙いは世界の経済成長をけん引するアジアへのアクセス強化だ。欧州連合(EU)離脱で対EU貿易が縮小するなど離脱の「負の側面」が顕在化していた。今回のTPP加盟はこれを直ちに挽回するほどのインパクトはないものの、アジア太平洋地域との結びつきの強化は、時間をかけて英国経済の基盤強化に貢献していくはずだ。
米国の復帰は見通せていない。TPP離脱によるアジア太平洋地域での存在感の希薄化を補うためにバイデン政権はインド太平洋経済枠組み(IPEF)を打ち出した。しかし関税削減は伴っておらず、米国市場参入の機会拡大が見込めないため盛り上がりを欠く。こうした状況の中でTPPの優位性を鮮明にするなど、追い風を起こしていきたい。
ともに加盟を申請している中国、台湾にどう対応するかは頭の痛い問題だ。国有企業優遇や知的財産権の保護などで問題がある中国が、TPPの求める高い自由化水準を達成する可能性は低い。
一方で世界的な半導体供給基地となっている台湾を取り込めればTPPの魅力は増す。しかし中国が強く反対しており、全加盟国が一致して加盟を認めるのは国際政治的には難しい情勢だ。自由貿易推進の原則はゆるがせにしてはならないが、TPPの安定的な運営のためには各国の事情、国際情勢を勘案した対応も求められる。