松江市が設置したIT技術者らの交流施設「松江オープンソースラボ」=松江市朝日町
松江市が設置したIT技術者らの交流施設「松江オープンソースラボ」=松江市朝日町

 松江市で毎年開催されるプログラミング言語「Ruby(ルビー)」の国際会議。昨年12月はコロナ禍で動画配信形式となったが、最新の技術動向を取り逃すまいと国内外のエンジニアら約500人がリアルタイムで視聴した。会議は12回を数え、「Ruby city MATSUE」は業界で知らない人がいないほど定着した。

 市がRubyに着目したのは2005年。その年の国勢調査で初めて人口が減少に転じたのがきっかけだった。定住対策を考える中で市在住のプログラマーが開発したRubyを固有の地域資源と位置付け、IT産業振興にかじを切った松浦正敬市長は「松江をRubyのメッカに」と声高に叫んだ。

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 小中学生のプログラミング学習支援から大学の講座まで人材育成を進めるとともに、JR松江駅前のビルには技術者が交流する「松江オープンソースラボ」を設置。こうした取り組みが呼び水となり、06年度のプロジェクト開始から20年度までIT関連企業41社が進出した。製造業の進出が同期間で8社であるのと比べると、突出度合いが分かる。市内のIT従事者数はこの15年で約2倍の1151人に増えた。

 ただ急拡大でひずみも生じた。IT業界はエンジニアやプログラマーが慢性的に不足する状況で、首都圏などの企業が松江市に拠点を設けるのは開発人員を確保するためでもあり、IT人材の争奪戦は過熱した。

 島根県情報産業協会の調査で、16年度は人材の不足感を訴えるIT企業が51社で全体の7割を超え、不足数は18年度には53社で計400人に迫った。限られた人材を誘致企業に奪われる構図に、地場のIT企業からは不満の声が上がっていた。

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 IT業界を志望する学生の都会地への流出も続いている。地場企業やこれまで進出してきた企業の多くが、下請け型の受託開発だ。これに対し、学生はゲーム開発やコンテンツ企画に携わりたいというニーズが高く、企業側との間でミスマッチが露呈している。

 市はIT誘致の間口を広く取る従来のやり方を改め、新たな道を探り始めている。自社開発の製造業向け調達支援システムを販売するオネスト(松江市東出雲町意宇南6丁目)の石〓(石ヘンに崎のツクリの大が立の下の横棒なし)修二社長(66)は「地場企業も受託開発だけでなく、自社の製品やサービスを生み出し、県外マーケットを自ら取りにいくことが求められる」と強調。付加価値を高め、産業を底上げするための行政支援の必要性を説く。

 下請け体質からの脱却はIT企業に限った話ではなく、製造業なども同じ。雇用の受け皿の大きさや数ではなく、松江に残り、または戻って働きたいと思える職場をどれだけ増やせるかが、産業振興に欠かせない視点となる。