老朽化した復元竪穴住居の前で、観光客をガイドする堀晄副会長(右)=松江市乃白町、田和山史跡公園
老朽化した復元竪穴住居の前で、観光客をガイドする堀晄副会長(右)=松江市乃白町、田和山史跡公園

 2015年5月、松江城天守(松江市殿町)の国宝指定が決まった。吉報を受けた松浦正敬市長は「感激で胸がいっぱい」と破顔し、関係者とともに天守前で万歳を繰り返した。

 松江城の国宝化を願う市民運動の高まりを受け、市は10年に松江城国宝化推進室を設置し、城や城下町に残る史料の調査研究を本格化。天守の建築年代を記した祈祷札(きとうふだ)の発見につながり、これが国宝指定の決め手となった。

 年間20万~30万人だった登閣者数は、国宝指定後の16年度に過去最多の52万人を記録。17~19年度も年間44万人前後が足を運んだ。

 一方、市が期待する周辺施設への波及効果は十分とは言えない。

 11年に開館した松江歴史館の入館者数は20万人前後で推移し、国宝指定後も大きな変化はない。3年がかりの大規模改修を18年に終えた武家屋敷は、19年に8万人を割り込んだ。

 「城に登って(周遊せずに)帰るという状況が続いている」と頭を悩ませる歴史館の藤岡大拙館長(88)。城を訪れた人が足を延ばして歴史を学び、城下町の風情を楽しむ流れにはつながっていない。

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 3月上旬、国史跡・田和山遺跡(同市乃白町)で観光客を案内した市民グループ「田和山サポートクラブ」の堀晄副会長(73)が「みっともない姿で申し訳ない」と、苦笑いを浮かべた。指し示す先には、梁(はり)が露出し、荒れ果てた竪穴住居があった。

 弥生時代の集落跡が残る田和山遺跡は、市が5億7800万円かけて史跡公園として整備。04~06年に竪穴住居など3棟を復元したが、管理不足のまま放置されている。

 傷みがひどい1棟について、市は撤去も視野に検討を進める。AR(拡張現実)技術を使って遺構面に復元住居の映像を浮かび上がらせる仕組みをつくる方針だが、クラブのメンバーは「何のために復元したのか」と不満顔だ。

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 東京大などで考古学を専攻し、海外のさまざまな遺跡調査に携わった堀副会長は、この状況を「まさに宝の持ち腐れ」と残念がる。

 文化財の管理不足は市内各地で露呈しており、出土した大量の土器や石器を収蔵するプレハブ施設は老朽化が進む。警報装置なども未設置で、文化庁が推奨する防災、防犯設備のある施設での管理、収蔵がなされていない。

 市は4月に「松江の文化力を生かしたまちづくり条例」を施行する予定で、「茶の湯文化」や「小泉八雲が五感で感じた文化生活」をまちづくりに必要な要素と位置づけ、文化行政の推進を目指す。ただ、文化資源の管理や活用に向けた課題が放置されたままでは、松江が誇る「文化力」を引き出すことは難しい。