今月3日、ユーモラスな形や鮮やかな色の作品で著名な現在美術作家・渡辺豊重さん(東京都出身)が91歳で亡くなった。渡辺さんの作品で島根県民になじみ深いのが、島根県立美術館(松江市袖師町)にある屋外彫刻の「会話」だ。指でポーズを送っているような作品は、最近で言うとSNSの「いいね」マークや「OK」サインにも見え、観光客の撮影スポットとしても定番だ。県立美術館で作品の背景を聞くと、作品には渡辺さん独特の世界観や遊び心が施されており、ますます興味を引かれてしまった。(Sデジ編集部・鹿島波子)
島根県立美術館は1999年3月、山陰両県で最大規模の美術館として開館した。「水と調和する美術館」「夕日につつまれる美術館」をコンセプトに、世界的建築家の故・菊竹清訓さんによる設計で建築された。同時並行して進められたのが、美術館周辺の親水護岸整備。宍道湖岸に屋外彫刻を設置することが検討された。
1995年の美術館建設の準備室の頃から携わっていた藤間寛館長(70)に経緯を聞いた。「島根県内に記念碑はあってもちゃんとした屋外彫刻がなく、彫刻も裸婦の立像のような肖像が多かった。そこで、ユニークな作品を見る機会を設けようということになった」

屋外彫刻の設置委員会(3人)が組まれ、その委員長を務めたのが、島根県吉賀町出身で日本を代表する現代彫刻家・澄川喜一さん(92)。素材をすべて違うものを使い、「風」「地」「光」「遊」の四つのテーマで作品を設置することになった。

「風」は、「動く彫刻」の第一人者で、当時・東京芸大教授(現名誉教授)の造形作家・伊藤隆道さん(84)=札幌市出身=による、宍道湖のさわやかな空気の流れをイメージした、ステンレスの輪がアルミニウム土台の上を電動でゆっくり回転する作品「舞う・風・ひかり」。「地」は、国内外で活躍される彫刻家の山根耕さん(90)=東京都出身=による、古代遺跡を思わせる御影石の作品「つなぎ石作品-35」。「光」は、戦後の抽象彫刻を引っ張った彫刻家の故・建畠覚造さん(東京都出身)による、ステンレス素材で波状の曲面が複雑に光を反射する「WAVING FIGURE(ウェービング・フィギュア)」。そして最後の「遊」が、渡辺豊重さんによる作品「会話」だった。
渡辺さんの作品はFRP(繊維強化プラスチック)と鉄骨、ウレタン塗装で作られ、高さは2m80cmある。「会話の遊び」を表現し、作品同士が会話しているような、あるいは作品を見ている人に会話を誘うような楽しさを引き出そうと作られた。屋外彫刻には珍しく、...