先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は核軍縮文書「広島ビジョン」で、透明性や対話を欠いた中国の核戦力の増強は世界や地域の安定にとって懸念があると明言した。中国は反発したが、疑念を抱かざるを得ない動きが顕著であり、中国は指摘を謙虚に受け止めるべきだ。
核兵器は核物質の入った弾頭とミサイルなどの運搬手段から成るが、中国はどちらも大幅に増やそうとしている。
中国は2017年、核兵器に転用できる高純度のプルトニウムを取り出すことが可能な高速増殖炉の建設を福建省で開始、年内にも稼働する。30年までに核弾頭約千発分に相当するプルトニウム生産が可能になると専門家は指摘する。米国防総省は35年に1500発になると分析する。
中国は高速炉着工と同じ時期に国際原子力機関(IAEA)に対するプルトニウム保有量の申告を突然停止した。秘密裏に核兵器に転用する狙いとしか思えない。
中国も加わる核拡散防止条約(NPT)では、非核保有国に対し核物質を民生利用する際に軍事転用防止のためIAEAによる監視を義務付ける。だが核保有国に義務はなく、中国の申告停止は条約違反ではない。
運搬手段では、21年に大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射用のサイロ(地下発射施設)の建造が衛星画像で確認された。既存分とあわせれば400基を超える規模だ。
こうした動きは習近平国家主席が昨年10月の中国共産党大会で世界一流の軍隊づくりへ向け「強力な戦略抑止システムを構築する」と述べた核戦力増強方針と一致する。
中国外務省の報道官はG7文書に「(核戦力は)安全保障に必要な最低水準」と反発。中国は「核の先制不使用」を宣言しており、意図は透明で脅威にならないと強調した。だが核弾頭数すら公表しないのであれば最低水準か判断しようもない。
脅威とは「意図」と「能力」のかけ算だ。意図は指導者によって変わりうる。だからこそ能力の透明性が求められる。
米ロは2国間で核弾頭数や運搬手段など定量情報を交換し、検証措置を設けて透明性を確保してきた。中国に米ロの軍縮枠組みへの参加を求めても、核兵器規模が米ロと異なると拒否している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、22年1月時点で中国の核弾頭は推計で350発。世界一のロシア5977発、米国5428発に比べ少ない。
ただ中国は、核兵器増加を止めるための兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉についても反対している。
中国の核弾頭数が、米ロが削減目標とする1550発に近づけば、核の戦略バランスは一変する。米中ロは〝対等〟になり、核軍拡のスパイラルに陥りかねない。中国自身はたびたび「戦略バランスを崩してはならない」と他国に警告するが、バランスを崩しているのは中国ではないのか。
中国は「核廃絶」を究極の目標に掲げる。責任ある大国を自任するなら、せめて米ロ並みに情報を公開するべきだ。高速増殖炉が民生用だと主張するのであれば、IAEAにプルトニウム保有量をきちんと申告するのが道理だろう。日本をはじめ国際社会は、核政策の透明性を高めるよう中国に粘り強く要求していくほかない。