参院予算委員会で答弁する岸田首相=26日午後
参院予算委員会で答弁する岸田首相=26日午後

 衆院の早期解散論が広がったかと思えば、先送り論が浮上する。

 政界では今、次期衆院選の時期に関心が集まっている。だが肝心なのは、岸田文雄首相(自民党総裁)が国民の審判を仰ぐ大義を示せるかどうかだ。まずは国会審議を通じ、衆院選で問う課題と具体的方針を明らかにしなくてはならない。

 岸田首相が議長を務めた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の期間中、一部報道機関による世論調査で、内閣支持率が上昇した。

 サミット前から内閣支持率は回復傾向にあり、自民内では6月21日に会期末を迎える今国会中の衆院解散論が強まった。内閣や党の支持率が一定の水準にあれば、衆院選で政権与党を維持するのに十分な議席を確保できるとの思惑がある。

 後押ししたのが、岸田首相の自民総裁再選戦略だ。総裁任期が切れる来年9月までに衆院選で勝利すれば、無投票再選の可能性も出てくる。首相は今年1月のBS番組で、国民の信任を得てから2期目に入るべきではないかとの質問に「そうだと思う」と答えている。

 議院内閣制の下、現状は自民総裁がそのまま首相の座に就く確率が高い。その是非を総裁選前に、政権選択になる衆院選で国民に判断してもらうという考え方は一理あろう。とはいうものの、衆院議員の任期は2年以上残り、今秋に見込まれる臨時国会や来年の通常国会での解散でも総裁選には間に合うはずだ。その分、国会論戦に時間をかけられる。

 しかし、年末に向けては、防衛力強化の財源を賄う増税幅や、少子化対策費への充当が検討されている社会保険料の上乗せ額が固まっていく。

 そうなると、選挙に不利に働くとの懸念があり、早期解散論につながっているとの見方がもっぱらだ。首相も、国会質疑で衆院選前に増税の規模や開始時期などを明らかにするよう要求されたが、曖昧な態度だった。

 自民内には、野党の内閣不信任決議案提出が、衆院解散の大義になるとの意見がある。だが、国民に負担増を強いる施策の当否こそ、衆院選で正面から掲げる争点だ。中身が不明確なまま、首相が衆院選に踏み切れば、解散権を恣意(しい)的に行使したとのそしりは免れまい。

 首相の姿勢と相まって与野党が選挙準備を加速しているが、サミット後、東京都の小選挙区の候補者調整で自民、公明両党の協議が決裂。公明が東京で自民候補を推薦しない方針を打ち出したことから、早期解散に否定的な声が出始めた。公明票がなければ、自民候補の当選が危ぶまれ、都外の選挙区でも公明支持層の投票行動に影響しかねないためだ。早期解散論も先送り論も「党利党略」に基づく発想と言わざるを得ない。

 共同通信の最新の世論調査で岸田内閣の支持率は47%と、前回4月からは横ばいだった。首相秘書官である長男が公邸内で記念撮影した不適切な行動への批判に加え、マイナンバーカードの利用拡大に伴うトラブル続出も影響したのは間違いない。

 今国会中の解散については60%が「実施すべきではない」と回答した。政府は国民生活に関わり、喫緊の課題であるマイナンバー問題の再発防止とともに、防衛増税など諸懸案について、国会の審議充実に努めるべきだ。