「島根レインボーパレード」のゴール地点となる松江城の馬溜で意気込む、佐藤みどりさん=松江市殿町
「島根レインボーパレード」のゴール地点となる松江城の馬溜で意気込む、佐藤みどりさん=松江市殿町

 6月は世界各地でLGBTQ(性的少数者)の権利について啓発を促す「プライド月間」。期間中、全国各地で当事者や支援者によるイベントが行われ、街を練り歩く「プライドパレード」も開かれるなど、性的少数者への理解促進や権利実現を訴える。島根県内でも今秋、山陰両県では初となるパレードを計画する人がいる。その思いに迫った。(Sデジ編集部・鹿島波子)

 

島根県の「パートナーシップ制度」導入が後押し


 プライドパレードは1969年6月、アメリカ・ニューヨークのゲイバーで、警察の踏み込み捜査に当事者らが反抗した事件「ストーンウォールの反乱」に由来する。翌年、ゲイ解放を訴えたデモ行進が起きたことがパレードの始まりだ。日本では1994年、東京で初開催され、徐々に全国へと拡大した。パレードと共に、ブース出店やステージイベントが実施されるなど、最近は大型イベントや一種のお祭りのような雰囲気で行われることも多い。

 山陰両県では大規模なパレードは実施されたことはないが、1人の当事者が立ち上がった。松江市在住の佐藤みどりさん(34)。体は女性だが、心は男女どちらでもない当事者であると公表し、啓発・相談活動を続けている。「ずっと生きづらさを感じてきた。姿を見せることで『近くにいるんだ』と知ってもらいたい」と仲間たちとパレード開催を決めた。

 「島根でレインボーパレードをしたい」と表立って言い始めたのは昨年10月。当初は準備を含め2年後の開催を目指していたが、その2カ月後の12月、島根県の丸山達也知事が性的少数者のカップルが共同生活を行うことを宣誓する「パートナーシップ制度」の導入を表明した。「周知の活動も必要だし、始まるタイミングでやれば、より理解が進むのでは」と1年前倒しを決め、年明けから本格的に準備に取りかかった。

島根県の丸山達也知事が「パートナーシップ制度」導入を表明した時の自社紙面の一部=2022年12月3日、山陰中央新報

 

LGBTQは「都会のこと」


 しかし、島根県内の理解度はまだまだ足りないと思うことが多いという。「島根に同性系の人っているんですか?」。パレードに向け商店街の人への聞き取りをした際、市民から発せられた言葉に衝撃を受けた。性自認や恋愛対象が違うだけのはずなのに、「同性系」という言葉に「異質な人だと思われている」と実感した。

 以前に比べれば「LGBTQ」という言葉も認知が広がり、同性婚に対しても世論で「賛成」が過半数を超え、今年5月30日には名古屋地裁で、同性婚の制度がないことを「違憲」とする判決が出た。違憲判決は札幌に続き2件目だ。しかし、講演などで話しても「都会のことだと思っとったわ」と言われ、地方格差を感じた。テレビで、女装でパフォーマンスをするドラァグクイーンのような個性の強い人ばかり出ていることも影響しているのだろうか。「日常生活ですれ違う人にもいる、ということが伝わってない」。島根県内でより身近なこととして捉えてもらう必要性を強く感じている。

同性婚を巡る名古屋地裁判決を受け、「違憲判決」などと書かれた紙を掲げる原告側の弁護士ら。ただ、都会だけの話ではない=5月30日、名古屋地裁前(共同)

 

「勇気が出た」と言ってもらえた


 佐藤さん自身も子どもの頃から生きづらさを感じていた。体は女性だが、恋愛対象は小学生の頃から決まって女性。親の転勤に伴い、県内を転々と暮らす中でも周りには言えず「死にたい」という気持ちを抱いた時もあった。自分のことを話せるようになったのは大学生になってから。所属するゼミの教授が、自分の武勇伝などあけすけに何でも話す「破天荒」な人で、「先生なら受け入れてくれるかも」と初めて自分のことを正直に話した。すると教授は「そんなの普通じゃん」と一蹴。友人に話すのを悩んでいると言うと「そんなんで離れるやつは元から友達じゃねーじゃん」と返され、考え方が一変した。

 それでも素の自分を出して働くイメージは全くなく、地元に戻り警察官として11年働いた。職場では、自分を隠して勤務を続けた。恋人との別れを契機に自らの人生を見つめ直し、退職を決意。長く生活安全部で相談業務に当たっていた経験を生かし、カウンセリングの資格を取った。

 転機が訪れたのは2022年5月。「LGBTQの人が生きやすくなる活動がしたい」と信頼する元職場の先輩に相談すると、松江市であったヘアモデルのショーを紹介されて出場した。そこで、母を含めた約400人の観客の前で、当事者であることを公に初めてカミングアウトした。会場では、こうして周りの人に話すことができた自分は幸せだと言い、まだまだ過去の自分のように隠している人も多くいるはずで「身近にいることを知ってほしい」と来場者に訴えた。

初めて公の場でカミングアウトした、ヘアモデルショーの時の佐藤みどりさん=2022年5月7日、松江テルサ(本人提供)

 すると、その後、県内の当事者から「実は自分も・・・」「勇気が出ました」と声を掛けられるようになった。公表する怖さはもちろんあったが「人知れず思い悩んでいる人のためになったのなら、やって良かった」と自分の行動の意義を強く実感した。以来、カウンセラーとして同じ境遇の人の相談に乗ったり、講演に呼ばれて「LGBTQ」について話したりする機会も増え、少しずつだが支援の輪や理解が広がっていると感じている。

 

11月25日に「島根レインボーパレード」


 計画するパレードは「島根レインボーパレード」と銘打ち、11月25日に予定する。コースは、JR松江駅前の松江テルサを出発点に、くにびき大橋を渡って松江市総合体育館の先の交差点を左折し、松江城をゴールとする2.3キロ。2時間近くかけてゆっくり歩く構想で、松江城近くの島根県民会館内で、ブース出店も受け付ける予定だ。

「島根レインボーパレード」で予定される、2.3キロのコース(実行委提供)

 開催を前にさまざまな地域のレインボーパレードを見学し、5月には山口県と神戸市にも出向いた。山口では地元の一大イベントと同時開催で、神戸もブースやステージだけを目的とした人も含め600人近く集まっていたという。佐藤さんは「デモ感が強いと逆に引いちゃう人もいると思う。アットホームで変に分断しない空気作りを主催者がすることが大事」と話す。当事者はもちろん、そうでない人も誰でも参加できるような形で開催する。既に県外からの参加申し込みもあるという。

 

当事者以外が関わることの意味


 佐藤さんの思いに呼応し、レインボーパレードの実行委員も集まった。現在4人で、うち2人はいずれも松江市在住で、地元の先輩の友人や知り合いの、医療関係者の五百川紘世さん(35)と、南アフリカ出身で英語講師のヴァンダウエストハイゼン・カーラさん(31)。

制作中のグッズを手に、今後の取り組みを笑顔で話し合う実行委メンバー=5月、松江市内

 五百川さんは、SNSでたまたま佐藤さんのヘアモデルショーの写真を見かけ「輝いていて、人として魅力を感じて話してみたいと思った」と言う。佐藤さんにSNSでメッセージを送り、実行委員に自ら加わった。

 五百川さんは当事者ではなく、LGBTQを理解し支援する人、つまり「アライ(支援者)」だ。当事者以外が関わる意味を、五百川さんはこう訴える。「大半の当事者じゃない人が、一緒に声を上げないと意味が無い。『助けてあげましょう』ではなくて『一緒に円陣を組みましょう』という意識を持てば、当事者以外も働きやすくなるし、いい方向にしかいかない」。当事者でないからこそ伝わることもあると信じている。

 カーラさんは日本のRPGゲーム好きが高じて日本に興味を持ち、7年前に英語講師として松江市に移住した。生まれた南アフリカは、LGBTQの理解は広がっており、同性婚もできる。実行委では、大学時代にデザインを専攻していた経験から、SNSデザインやグッズ製作を担当。「周りの目を気にせず楽しく歩くイベントにしたい」と寄り添う。

制作したポスターや缶バッジ。当日に向けて準備は続く(実行委提供)

 

講演やプレイベントで啓発


 心強い仲間たちを得て、佐藤さんは今、缶バッジを作ったりポスターを作ったりと準備の真っ最中だ。講演などでの啓発活動も、随時行って広めていく。秋頃にはプレイベントとして、同性婚にまつわる展示の計画もしているという。島根県も10月1日、全市町村と共同で「島根県パートナーシップ宣誓制度」を始める。「流れをつかんで、加速的に理解が進んでいけたらいいな」とパレードとの相乗効果を期待する。

 誰もが過ごしやすい暮らしが一日でも早く訪れるためにも、島根県が変わっていくきっかけになってほしい。いや、ならなければならない。記者も、佐藤さんの活動を目に焼き付けて取材していきたい。
 

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【島根レインボーパレード】
公式HPはこちら(パレード参加申し込みも)

【佐藤みどりさん:リアル講演】
◎おとなの寺子屋 もっとカジュアルにLGBTを知りたい!
日時:6月20日(火)19:00~20:30 <500円>
場所:松江市市民活動センター504講義室(松江市白潟本町43)
内容:LGBTって特別なことじゃない▽「大事な人の命を守る」▽島根レインボーパレードの開催
申し込み先:https://forms.gle/yopFsjcp6z2Mnaov9
メール申し込み:info@matsue-stic.net
電話申し込み:0852-32-0800

【佐藤みどりさん:オンライン講演】
◎拡大版第103回さぽっとカフェ「LGBT当事者と考えるみんなが生きやすい島根」
日時:6月28日(水)12:00~13:00 <無料>
内容:LGBTのリアル▽誰でもできるシンプルな問題解決方法▽どうする?これからの島根
   ※申込者に限り、見逃し配信URLを送付
申し込み先:https://forms.office.com/r/ED5StPrWYK (締切:6月26日17:00まで)