松江市灘町のNHK松江放送局の新放送会館が3月6日、運用を始めた。「地域の交流拠点」を掲げる新会館の食堂は一般開放され、現在は利用者の約8割が職員以外という。どんな食堂なのか、食には目がない記者が行ってみた。(Sデジ編集部・林李奈)
社員食堂は、3階建ての新会館の1階の宍道湖側にある。広さは約70平方メートルで、席数は22席。名前は「キッチンそらまめ」で、障害者就労継続支援A型事業所のそらまめらんど(松江市上乃木町5丁目)が運営している。そらまめランドは旧会館時代の2020年から社員食堂を運営しており、リーズナブルで栄養価にもこだわった料理は職員に親しまれている。

旧会館時代も、利用を職員に限ってはおらず、仕事で来訪した人が食堂を利用することはあった。ただ近年は、新型コロナウイルス禍もあり、外部の利用はほとんどなくPRすることもなかった。旧会館の老朽化に伴い、整備された新会館は「地域の交流地点」をコンセプトに掲げることになり、NHK松江放送局の石井章副局長は「NHKに親しんでもらうため、食堂を一般開放し、積極的に市民の利用を受け入れることを決めた」と開放の理由を話した。
利用時間は午前11時~午後2時半のランチタイム。5月26日11時ごろ、お腹をすかせて新会館に向かった。新しい松江放送会館に入るのは初めて。同じ報道機関として、取材現場ではライバル関係にあり、踏み入れるのに少し緊張しながら食堂へと向かった。
食堂に入ると、まずその景色のよさに驚いた。ガラス張りの向こうには宍道湖が一望できた。店内はほぼ満席で、食堂というより、開放的なカフェスペースのよう。入ってすぐのところに食券機があった。メニューは、かけうどん(300円)、チャーシュー丼(500円)など20種類以上あり、価格は300円~850円。テイクアウトの弁当も540円で売っていた。種類は豊富で価格はリーズナブルだ。

早速、日替わりランチの「鯖酢飯いなり&エビ天そば、ほうれんそうのおひたし」(700円)が目を引き、ボタンを押した。食券を店員に渡すと、番号券と引き換えられた。ショッピングセンターのフードコートのような仕組みだが、番号券は店名にちなんでなのか「そらまめ形」をしていてかわいい。

宍道湖側の席を選び、放送会館前の道路をせわしなく通過する車を見ながら待っていること5分。番号が呼ばれ料理を受け取った。割子に入ったそばにはのりがかかっていて、ワサビとネギもついていた。いなり寿司は、外側の油揚げや錦糸卵と中に入っているサバのバランスが良く、いくらでも食べられそうだ。エビ天も、ふわふわの衣にくるまれたエビとスパイスの組み合わせがおいしかった。全体的にどの年代の人からも受け入れられる味付けでしっかりとしたボリュームもあり、お腹は満足した。

石井副局長によると、1日当たり約60人が利用し、利用者の約8割が市民という。オープン当初は1日に100人近い日もあったらしい。食堂の周囲を見渡すと団体で利用している高齢者グループ、10枚つづりのチケットを購入して使用している市民の姿もあった。リーズナブルで味もしっかりしていれば、通いたい気持ちも分かる。

他の利用者の声を聞いてみた。初めて来たという松江市東津田町の小西紘子さん(78)は「宍道湖を見ながら食べる料理はおいしかった。近くにパン屋や美術館もあるので、これから周辺を探索したい」とうれしそうに話した。食事後は、家族に見せるため、放送会館の前で記念写真も撮るという。
一緒に来ていた友人で、同市川津町の加納絢子さん(76)も「友人がここのちゃんぽんが美味しいと教えてくれた。松江駅前などのカフェがなくなり困っていたので、食事できるスポットが増えてうれしい。また訪れたい」と満足した様子だった。
もちろん、松江放送局で働く約70人の職員も利用している。注文してから出るまでの時間が速く、時間に追われる報道関係者にも助かるだろう。ニュースで見るアナウンサーもいるのではないかと顔をキョロキョロさせていたが、その日は見つけることができなかった。
食堂を運営するそらまめランドの福井桂社長(39)は「これからもっと多くの人に利用していただけるように、社員食堂の営業時間を長くしカフェの営業や、土日祝日でも利用できるようにしていきたい」と話した。この立地で、土日にカフェができれば、宍道湖畔を訪れた観光客も立ち寄ってみたくなるかもしれない。

新放送会館の食堂は、宍道湖の景観とマッチしてさまざまな人が交流できるサロンのような場所だった。放送会館では、食堂だけではなく、1階のフロアは一般に全て開放されており、220インチの8Kモニターで大相撲などを視聴できる。3階は宍道湖が一望できる屋上スペースがあり、市民も入場可能だ。地域の交流地点として多くの市民に愛される場所になれるか、記者として、1人の市民としても注目していきたい。


NHK松江放送会館 松江市灘町101-6
開館時間は午前9時半から午後6時(土日祝日、年末年始除く)
食堂利用は11時から午後2時半
駐車場10台(一つは思いやり駐車場)