第一章 目利き(九)

「香合」

 口の中でもう一度呟いて、顎が跳ね上がった。

 色(いろ)絵(え)金(きん)彩(さい)仁(にん)清(せい)の秋草絵。

 あの時の。

 寅蔵がその香合を見せられ...