政府は経済財政運営の指針「骨太方針」を閣議決定した。目玉の少子化対策で児童手当を大幅拡充するなど、2030年代初頭までの予算倍増を明記する一方、その財源は結論を先送りした。防衛費増額の財源についても、予定する増税時期の先延ばしを強くにじませた。
国民負担を曖昧にしたのは、岸田文雄首相と与党が衆院選を強く意識したからだろう。しかし、ばらまき色の濃い政策で歳出を膨張させながら財源の在り方を示さないのでは、「負担隠し」のそしりは免れない。政治の姿勢として無責任と言うほかない。
骨太方針は、24年度の予算案編成や税制改正の大枠を方向付ける。今年の柱は岸田首相が「異次元」の取り組みを表明した少子化対策で、政府は児童手当の支給対象を高校生の年代まで広げ、高所得世帯への支給制限は撤廃。第3子以降では倍増する方針だ。育児休業は、手取り額の維持へ給付率を一定期間上げることで取得を促す。
これらの施策に3兆円半ばを追加することで、こども・子育て予算を30年代初頭までに倍増させると盛り込んだ。
年間出生数が80万人を割った危機的な少子化の対策充実に、異論はない。だが手当の支給対象を高所得世帯に広げる政策効果には、首をかしげざるを得ない。かえって習い事への支出増などを通じて、教育格差を拡大させる恐れがあろう。
昨年末に決まった防衛力強化と同じく、こども・子育て予算を「倍増」させる根拠は見えない。丁寧な政策検証と積み上げを欠いた歳出拡大では、岸田首相による政治的パフォーマンスと言われても仕方あるまい。
歳出メニューが目白押しの一方で、歳入の確保策は著しく見劣りする。少子化対策では財源に「消費税を含めた新たな税負担は考えない」としながら、他方で社会保険料の上乗せなどを示唆。結論は年末まで出さず、政府は一時的な不足を国債の借金で賄う考えだ。
このような政策プランに、将来への不安を覚えない国民がいるだろうか。少子化克服への逆効果となりかねない点に岸田首相は気付くべきだ。
防衛費増額では、27年度で1兆円強を想定する増税について、実施時期を従来の「24年以降」から「25年以降」へ先送りすることに含みを持たせた。国民の反発を恐れた自民党の意向を反映したためで、決算剰余金の活用などを探るという。
決算剰余金は予備費などで多めの予算を組むと結果的に生じるが、予算の歳入は国債頼みである。防衛費増の財源に事実上借金を充てる事態とならないだろうか。
歳出拡大策が満載の骨太方針において、国と地方の基礎的財政収支を25年度に黒字化する目標を維持し、「歳出構造を平時に戻していく」と記した点は数少ない救いと言える。新型コロナウイルス禍で常態化した巨額の補正予算や予備費は、過去のものとすべき時だ。
財政健全化には税制改革の取り組みも不可欠だが、方針はほとんど触れていない。大事なのは歳入確保だけでなく、税制を通じて社会の公平性を図る点である。
児童手当を余裕のある世帯へも支給するならば、扶養控除や所得税をはじめ、高所得層に恩恵の大きい金融所得課税などを併せて見直すべきではないだろうか。













