ブリンケン米国務長官が北京を訪問し、中国の習近平国家主席、秦剛国務委員兼外相らと相次いで会談した。米国務長官の訪中は約5年ぶりで、2021年1月のバイデン政権発足後、閣僚の訪問は初めて。
ブリンケン氏は習氏に対して「責任を持って米中関係を管理することが世界の利益だ」と述べ、関係改善を要請した。習氏は「二大国は平和的共存の道を探し出せる。世界は安定した米中関係を必要としている」と応じ、双方は関係改善に向けたハイレベルの対話継続で一致した。
米中両国が危機管理の重要性を確認した点は評価したい。ただ、台湾問題や中国の人権侵害、強引な海洋進出など、覇権を争う両国の確執はなお根深い。世界の平和と安定に重大な責任を持つ二大国は引き続き真(しん)摯(し)に対話を進め、緊張緩和に努めるべきだ。
ブリンケン氏は秦氏との会談で、不測の事態を防止するため意思疎通を維持する重要性を強調し、複数の分野で懸念を表明。ウクライナを侵攻するロシア支持、台湾への武力威嚇などで中国を批判したもようだ。
秦氏は台湾問題について「中国の核心的利益の核心で最も突出したリスクだ」と述べ、米国に台湾独立を支持しないよう強く求めた。
会談は夕食も含めて約7時間半に上った。対立する問題で激しいやりとりがあったとみられるが、双方は詳細な発表を控えた。秦氏の訪米に合意しており、対話継続に向けた双方の前向きな姿勢がうかがわれた。
習氏は「米国に挑戦したり、取って代わったりする意図はない」と述べ、米中の「相互尊重、平和共存、協力互恵」を改めて呼びかけた。
バイデン大統領は「数カ月以内」の習氏との会談を希望。双方は11月に米国で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などに合わせた会談への地ならしを始めたもようだ。前向きな米中首脳会談の実現を期待したい。
5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳声明は中国に対し、「力や威圧による一方的な現状変更の試み」に強く反対し、「台湾海峡の平和と安定」の重要性を訴えた。
中国は激しく反発したが、サミット後、米中の経済閣僚が会談するなど対話の機運が生まれてきた。だが、シンガポールでの国防相会談は中国側が拒否した。ブリンケン氏は会談で軍のハイレベル対話再開を要請したが、中国側は応じなかった。偶発的な衝突回避には軍の対話が不可欠であり、中国は柔軟に対応するべきだ。
6月中旬、日米とフィリピンは安全保障担当高官協議の初会合を東京都内で開き、中国を抑止する姿勢を示した。日米韓の安保協議も行った。
岸田政権が米国の働き掛けに応じて対中けん制を強化する中で、日中関係は急激に冷え込んできた。中国は北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所開設を検討していることも対中包囲網づくりと警戒する。
岸田文雄首相は都内で講演し、対中関係について「あらゆるレベルで緊密に意思疎通を図ることが重要だ」とし、「訪中についても考えていく」と述べた。言葉通り、習氏と早期に首脳会談を行い、率直で建設的な対話を通じて、対米関係の改善を促すとともに、日中関係の立て直しに取り組むべきだ。













