行政府のチェック機能も果たせず、疑惑などの解明も中途半端で自らを律することもできない。これでは政府の方針を追認するだけの〝下請け〟機関と呼ばれても仕方ない体たらくだ。
通常国会が閉幕した。150日間の国会で論点になったのは、岸田文雄首相が「安全保障政策の大転換」と胸を張る防衛力の抜本強化と防衛費の大幅増をはじめ、異次元と銘打った少子化対策、最大限活用する方針に転じた原発政策など、国の針路を問う重いテーマが相次いだ。
にもかかわらず、それにふさわしい、実のある論戦が展開されたとは言えまい。後世、今回の政策転換を振り返る際に、国会がしっかりと論議した形跡を見いだすことは困難だろう。立法府の審議の空洞化は一段と進み、三権分立は危機にひんしている。
大きな責任は、野党の疑問に真正面から答えない岸田首相ら政権の不誠実な対応、それを許して法案処理に突き進む与党にある。野党も足並みをそろえられず、迫力不足だった。一定の審議時間が経過すれば、次から次へと数の力で可決していくベルトコンベヤーのような光景がより強まった。
反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に象徴される防衛力の強化は、戦後堅持してきた専守防衛の根幹を変質させることにほかならない。本来ならば、一国会で結論を出す問題ではなく、歴史に残る質疑を繰り広げなければならないはずだ。東京電力福島第1原発事故を経験しながら、あっさり原発に回帰するならば、国民的な議論が不可欠である。防衛費も少子化対策もメニューを並べても、肝心の財源が後回しでは、論戦は深まりようがない。
言うまでもなく、国民の多様な価値観を代表する与野党の議員で構成された国会は、幅広い合意を取り付けるために努力することが使命だ。
ところが、改正入管難民法で与党は、立憲民主党の賛成が見込めないとなると、同党との協議で提案していた難民認定手続きをする「第三者機関設置の検討」などを引っ込める狭量な姿勢を示した。LGBTなど性的少数者への理解増進法は、超党派の議員連盟が2年前にまとめたものから大きく後退、全ての政党の賛同は得られなかった。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係、放送法の解釈変更問題も結局核心に迫れず、月100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の透明化も再び置き去りにされた。
短時間の審議で成立を狙い、政権が「束ね法案」の手法を駆使しているのも、国会の活性化を阻害している。「原発回帰」法は5本、マイナンバー関連法は13本の法案をひとくくりにしており、論戦の中身が薄くなる一因だ。マイナカードのトラブルが続発しながら、利用を拡大する関連法を成立させる見識を疑う。
野党は多くの議員立法を提出しているが、そのほとんどがたなざらしだ。与党の質問力を試すためにも、会期を延長して集中的に論議、採決する時間を設定するのも一案ではないか。
故中曽根康弘元首相は「政治家は常に歴史法廷に立つ被告人だ」と語っていた。転換期だからこそ、歴史の評価に堪えうる論戦が不可欠だ。速やかに臨時国会を開き、言論の府の再生へ踏み出さなければならない。