会合の世界的な規模からみて場違いなテーマかと思っていたが、そうではなかったようだ。
三重県志摩市で開催された先進7カ国(G7)交通相会合は、人口減少地域を含めて、誰もが利用できる移動手段の提供が重要とする閣僚宣言を採択し、閉幕した。
環境負荷の低い再生航空燃料(SAF)の利用拡大など脱炭素化や、障害者、高齢者らに配慮したバリアフリー化推進での連携、ウクライナの交通インフラ復興に向けた協調…。世界規模の課題が協議され、宣言に盛り込まれる中、過去の交通相会合では扱われなかった「地域交通網」をテーマに取り上げたのは議長国の日本だった。
閉幕後の記者会見で議長の斉藤鉄夫国土交通相(島根県邑南町出身)は「過疎、高齢化は日本が最も進んでおり、地域公共交通を守ることは重要なテーマだ。日本の試みを各国が注目している」と力を込めた。
日本では、人口減少やマイカーの普及などで地方鉄道の乗客数が減少をたどる。公共交通再編が重要課題になっており、今年4月、経営が厳しい地方鉄道の存廃を巡り、事業者と自治体が協議する枠組みの構築を盛り込んだ関連法が成立。国が主導し、住民の利用を促して鉄道を存続させるか、バスなどに転換するかを協議する。
国交省は、輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が千人未満の線区を「特に優先度が高い線区」と位置付ける。
山陰両県ではJR木次線(宍道-備後落合)が該当する。斉藤氏は今年2月、本紙の取材に対し「島根では木次線について話し合いをしていきたい」と明言。「人口減が進む地域で住民が利便性を感じられ、いかに持続可能な地域交通にしていくかを協議し、結論には国が財政支援を含めて責任を持つ」とし、協議入りを促した。
こうした日本の対応に各国が関心を示したという。将来に危機感を抱いている証しだろう。
G7の他国も、独自の取り組みを始めている。フランスでは2019年に「モビリティ基本法」が成立。交通の空白地帯をなくし、自治体などが全ての国民に交通を提供すると掲げた。
高速鉄道の整備に傾斜していた投資も、近距離交通に転換。複数の交通機関の予約、決済などを一括して行うことができる「MaaS(マース)」や、自動運転の導入にも力を入れる。
ドイツでは幹線鉄道は国、地方鉄道は州が所管し、月49ユーロで鉄道やバスが乗り放題の「ドイチュランドチケット」を導入。米国はガソリン税の一部を路線バスなど公共交通の維持に充てているという。地域交通の課題はG7に共通しているようだ。
これら各国の取り組みは日本にとっても参考になるだろう。
斉藤氏の出身地を走っていたJR三江線(江津-三次)も、沿線人口の減少による利用減などで18年3月末で廃止され、バス転換された。地元自治体が出資する第三セクター鉄道移行との二者択一を迫られ、コストが安いバス転換を余儀なくされた。
今回の国主導の協議会でも、選択肢はその二つが有力になるだろうが、それに固執する必要はない。G7各国の取り組みを共有し反映させるという視点も欠かせないだろう。やれることは、まだあるはずだ。