改正少年法が成立した。来年4月の改正民法施行で成人年齢が18歳に引き下げられるのに合わせ、新たに成人となる18、19歳を「特定少年」と規定。全ての事件を家庭裁判所に送致する仕組みは維持する一方で、家裁から原則として検察官に逆送し、20歳以上と同様に刑事裁判で裁く事件を拡大する。更生・保護よりも厳罰化を優先した。

 これまで原則逆送の対象は、16歳以上による殺人や傷害致死など「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」に限られてきた。これに強盗や強制性交といった「法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮に当たる罪」を追加する。さらに起訴した段階で実名や顔写真などの報道も解禁する。

 参院で審議入りした際、菅義偉首相は「社会で責任ある立場になる一方で、成長途上にあることを踏まえて取り扱うべきだ」と答弁した。しかし実名報道解禁により立ち直りと社会復帰は一層困難になろう。また交友関係に問題があるなど犯罪に至らない「虞犯(ぐはん)」で家裁送致する対象からも特定少年を外すため、きめ細かい教育的な指導の機会は失われてしまう。

 改正法からは「成長途上」への配慮がほとんどうかがえない。民法との整合性にこだわり、少年法の目的である「健全育成」が大きく後退する結果になった。特定少年の立ち直りを妨げないよう、慎重な運用を心掛けることが求められよう。

 改正の議論は、適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうか法相から諮問があり、2017年3月に法制審議会の部会で始まった。しかし賛成派と反対派の対立で3年余りたっても結論が出ず、与党が引き下げを棚上げして厳罰化を図る案をまとめ、改正へのレールを敷く異例の展開をたどった。

 もともと少年事件の急増や凶悪化など改正の根拠となる事実はない。しかも家裁が立ち直りに重きを置いて、事件を起こした少年の生い立ちや家庭環境などを綿密に調査し、刑罰ではなく保護処分を決める現在の制度は十分機能していると改正を巡る立場にかかわらず、誰もが認めていた。

 そうした中で「法制度全体の整合性」などを掲げ、厳罰化にかじを切った影響に懸念が広がっている。例えば、原則逆送の対象に追加された強盗罪。主犯か従犯か、既遂か未遂か、被害金額が少額といった酌むべき事情があるかなどで判決の重さに幅があり、18年までの3年間に20~21歳の5割以上に執行猶予が付いたという統計もある。

 18、19歳は今なら家裁送致となって少年院送致などの保護処分を受けるが、改正法の下で逆送を経て執行猶予付きの判決になれば、家裁などによる調査や教育的指導に全く接しないまま社会に戻ることになる。立ち直りにはマイナスだろう。

 家裁は、対象事件なら一律逆送ではなく、事件の中身を丁寧に検討して判断することが求められる。また裁判所が保護処分相当と判断すれば、事件を家裁に送り返すこともあるが、起訴時に実名が出ていると取り返しがつかず、できるだけ早い時期に実名報道解禁を見直すことも考えたい。

 18、19歳は学生も多い。立ち直りの可能性が高いことに異論のある人は少ないだろう。「相応の責任」を負わせるための厳罰化により、その道を閉ざすのは何としても避けなければならない。