経団連は病気療養に専念する中西宏明会長(75)が辞任、住友化学の十倉雅和会長(70)が後任に就き、6月に新体制がスタートする。
日本の企業経営環境はここ数年で激変した。新型コロナウイルス感染拡大、脱炭素化の推進、米中対立による経済安全保障など従来の手法では打開できない難問にどう挑んでいくのか。対応を誤れば、日本企業は世界市場で存在感を失いかねない。
経済成長をけん引するのは民間企業の活力だ。「グリーン」や「デジタル」などのこれから主戦場となる分野でいかに世界のライバルと肩を並べていくか。技術開発や事業強化につながる投資、人材育成などに大胆に経営資源を投入する戦略を強化しなければならない。
十倉氏に求められるのは、無難な「大企業クラブ」の運営ではない。ポストコロナに向け企業体質そのものを大きく転換する必要性を訴える強いメッセージを発信することだ。
政府との関係について十倉氏は蜜月な連携を続けた中西路線を引き継ぐと表明したが、脱炭素化の具体的な手法、規制緩和や法人税改革などでは政府の方針と合致できない問題も出てくるだろう。「言うべきことは言う」強い指導力も必要だ。
企業経営の立場から景気や社会保障、環境問題など幅広く政策提言することも経団連の重要な役割だ。この点、中西・経団連では、コロナ対策などでの積極的な活動はみられなかった。
在宅勤務の推進のための手当創設なども含めた制度設計をはじめ取り組むべき問題は多い。コロナ問題は当面、十倉・経団連にとって最重要課題になる。経済団体として実効性のある対策を打ち出すべきだろう。開催を危ぶむ世論が出てきた東京五輪・パラリンピックにどう向き合うかも問われる。
巨額に積み上がった内部留保は、消費の底上げにつながる賃上げなどの社員の待遇改善に活用できるのではないか。十倉氏のリーダーシップに期待したい。
この10年、世界経済の地図は大きく塗り替えられた。グーグルなど「GAFA」と呼ばれる米IT大手があらゆる分野で存在感を高めた。ソーシャルメディアやインターネット広告・通販、携帯端末を牛耳るだけではない。ネット活用によって小売りや流通にも手を広げ、既存企業は軍門に下った。自動運転技術の開発や金融システムなどにも積極的に進出している。
なぜ、日本でGAFAに匹敵する企業が出てこないのか。創業間もないものの将来性がある新興企業に投資するベンチャーキャピタルの層の薄さも指摘されるが、イノベーションに対するこだわりや起業家精神の弱さに由来するように思える。日本のビジネス環境改善の方向性は、ここらあたりにあるのではないか。
中西氏は経団連による大学新卒の採用指針の廃止を決めたほか、デジタル化を強化、ITやベンチャー企業の加盟を促進した。またディー・エヌ・エーの南場智子会長を初の副会長に迎え入れ女性活躍の道を開いた。病気療養での途中降板は無念であるに違いない。
中西氏が導入した試みは経団連の活動を時代の変化に適応させたり、多様化させたりする基礎になるが、まだ緒に就いたばかりだ。本格的な展開や強化は十倉氏に宿題として残された。