名古屋刑務所=愛知県みよし市
名古屋刑務所=愛知県みよし市

 名古屋刑務所の刑務官22人が受刑者3人に暴行・暴言を繰り返した問題で、法務省の第三者委員会が、再発防止策をまとめた提言書を法相に提出した。

 原因や背景に刑務所側の「人権意識の希薄さ」「規律秩序の過度な重視」を挙げ、組織風土の変革や受刑者処遇の体制充実などの改善策を打ち出した。

 名古屋刑務所特有の問題などと矮小(わいしょう)化することなく、全国的な改善の取り組みを提言した姿勢は一定の評価ができよう。法務省は迅速、着実に実行に移してもらいたい。

 ただ、忘れてはならないことがある。同刑務所では約20年前にも受刑者計3人が死傷する暴行事件が発生し、受刑者らの権利を明確にした刑事収容施設法制定などの大改革が行われたのに、再び繰り返されたことだ。

 今度こそ根絶せねばならないが、提言は現行制度の運用改善にとどまった。法務省は第三者委を常設化して継続的に効果を検証し、必要なら法改正にも踏み込むべきだ。

 この問題で法務省は、名古屋刑務所では1年足らずで、受刑者3人に対する刑務官22人の暴行、不適切処遇が計419件あったと認定。3人を停職6カ月の懲戒とするなど全員を処分した。13人は特別公務員暴行陵虐致傷容疑などで書類送検されている。検察には厳正な刑事処分を求めたい。

 提言書によると、名古屋刑務所では刑務官らが受刑者を「懲役」「やつら」などと呼んでいた。第三者委は「受刑者を見下し、その人権を尊重する意識の希薄さがうかがえる」と厳しく指摘。これを受け、法務省はただちに禁止するとしている。意識改革の第一歩となることを期待したい。

 さらに刑務官らに「受刑者はいつ反抗するか分からない危険な人たち」との漠然とした不安感があり、厳格な管理下に置こうとする傾向を生んでいるとも指摘した。これを踏まえ「刑務官らだけで受刑者の特性に応じた処遇をするのは困難。教育、心理、社会福祉などの専門家が関与し、チーム処遇を展開すべきだ」と提案している。

 一方、今回の問題では、弁護士、医師らでつくる名古屋刑務所の刑事施設視察委員会が、受刑者との面接などから「職員の不当な言動」を把握し、刑務所側に対策を求めたのに、生かされなかったことが判明した。

 視察委制度は約20年前の事件を契機に、刑事収容施設法の規定で各施設に導入されたものだ。第三者委は実効性確保のため、法務省矯正局や矯正管区による監督・指導強化などを提言した。

 法務省は、速やかに実現させねばならない。ただ、それで十分なのかは疑問が残る。期待した効果が得られない場合、同法を改正して、視察委により強い権限を与えることも検討すべきだ。

 いま矯正行政は大転換点にある。明治以来の刑罰が変わり、2025年までに「懲役」「禁錮」が廃止されて「拘禁刑」に一本化される。刑罰の目的は「懲らしめ」から「立ち直り」になる。

 第三者委は「拘禁刑時代」の在るべき姿に言及し、提言書をこう締めくくった。

 「受刑者の人間性を尊重、特性に応じた処遇を行うことは、真の更生、新たな被害者を生まない社会の構築につながる」

 刑務官ら一人一人が、この重要な職責を胸に刻んでほしい。