金融庁は千葉銀行など3社に業務改善命令を出した。金融庁が入る合同庁舎=東京・霞が関〓(?)
金融庁は千葉銀行など3社に業務改善命令を出した。金融庁が入る合同庁舎=東京・霞が関〓(?)
金融庁は千葉銀行など3社に業務改善命令を出した。金融庁が入る合同庁舎=東京・霞が関〓(?)

 投資の知識や経験が少ない顧客にリスクの高い金融商品を売っていた千葉銀行と傘下のちばぎん証券、武蔵野銀行の3社が金融庁の行政処分を受けた。手数料を稼ぐことを最優先した営業手法であり、顧客の信頼を裏切った責任は重大だ。

 元本が保証されている預金に慣れた銀行の顧客を、元本が目減りするリスクがある投資に誘導するには、丁寧な説明が必要なはずだ。それを怠ったばかりか、苦情が出てもまともに取り合おうとしなかったのは、法令順守と企業統治(ガバナンス)の両面で問題が大きい。経営陣の責任を厳しく問わねばならない。

 高い利回りが期待できる金融商品はリスクも大きい。千葉銀などが売っていた「仕組み債」という商品がそれだ。いくつもの株式や債券を組み込み、高い利益を狙うが、大きな損失が生じる可能性もある。機関投資家を念頭に開発されたが、個人にも投資経験が豊富な場合に限って販売されてきた。

 だが、証券取引等監視委員会の調査では、千葉銀やちばぎん証券などは、顧客の投資経験をきちんと確認しないまま、仕組み債を販売していた。低リスクの安定した運用を望む顧客にまで、高リスクの仕組み債を勧めたケースもあったという。

 顧客の知識や経験に見合わない取引に誘導しないことは、金融商品取引法の重要なルールであり、証券営業の基本だ。それが銀行と系列証券によって踏みにじられた。銀行の証券ビジネスの実情をあらためて洗い直す必要がある。

 千葉銀などはなぜ、仕組み債を販売していたのだろうか。超低金利が続き、銀行も融資による金利収入を拡大するのは難しい。顧客も銀行預金の金利の低さにはうんざりしている。金融商品の販売手数料を増やしたい銀行側と、有利な利回りを求める顧客の利害は一致しているようにも見える。

 実際、仕組み債を取り扱っていた地銀は一時、8割近くに上った。しかし、これまで元本割れしない預金や国債による運用しか知らない顧客に、一足飛びに仕組み債を売るのはあまりにも乱暴だ。高利回りのからくりや、組み込まれている株式や債券の内容を説明するのは、そう簡単なことではない。

 証券会社などで営業を経験してきた人材を中途採用する銀行は少なくない。だが金融商品の知識は豊富だが、銀行顧客の運用傾向や投資知識の水準に無頓着なようでは困る。

 預金者の中には投資に不慣れな高齢者がたくさんいる。金融商品を導入したり、実際に販売したりする時に、いちど立ち止まって自身に問いかけてほしい。「これは自分の親にも勧められる商品だろうか」と。リスクと背中合わせであることを明確に語らないまま、高い利回りへの期待ばかりをあおるような手法は根絶せねばならない。

 大きな損失が出た顧客からの苦情は、業界団体などの窓口に届いていたが、経営陣の間に広く共有されることはなかった。顧客からの苦情は往々にしてビジネスの実態を映し出す。その自覚を持っていないなら、金融商品の販売を手がける資格に根底から疑問符が付く。

 超低金利という経営環境は言い訳にならない。銀行本位ではなく、顧客本位の改革を真剣に実行しなければ、名門地銀の信用と地位は危うくなる。