来年7月のパリ五輪開幕まで26日であと1年となった。新型コロナウイルスまん延下で開かれた2021年東京五輪は混乱が続いた。五輪はパリで再生できるか。国際オリンピック委員会(IOC)が信頼を回復することが第一の鍵となろう。
パリ五輪への最大の懸案は、ウクライナに侵攻したロシアと侵攻を支援するベラルーシ両国選手への対応だろう。戦争の収束が見えない中、スポーツによる国際平和を最大の理念に掲げるIOCは、この問題に毅然(きぜん)とした態度を取れないでいる。
昨年2月に侵攻が始まると、IOCは直ちにロシアとベラルーシを競技会から除外するよう国際競技連盟(IF)に勧告した。しかし、今年に入ってIOCは豹変(ひょうへん)。両国選手は戦争に協力しない中立選手であることなどを条件に、個人資格で国際大会参加を容認するようIFに要請し直した。
IOCは方針変更の理由として「いかなる選手もパスポートを理由に大会参加が妨げられてはならない」と説明。理想論ではあるが、不当な武力侵攻が続くさなかでは説得力を欠く。そもそも戦時下の権威主義国家で中立だと言える選手などいるのだろうか。
判断を委ねられたIFは当惑し、参加容認組と除外継続組に分かれた。IOCはパリ五輪にもロシア、ベラルーシ選手を条件付きで個人参加させたい意向のようだ。バッハ会長はこのほどの会見で、参加可否の判断は先送りしたものの「各国政府の行為のために選手を罰しない」と述べた。
開幕1年前になっても明確な指針を示せないIOCは優柔不断だ。既にウクライナ近隣の複数の欧州諸国は、ロシア選手らの参加を認めればパリ大会をボイコットする意向を示している。IOCは冷戦時代に東西両陣営が応酬した五輪集団ボイコットの再来におびえながら、戦争の成り行きを見守るだけなのか。IOCはもっと非難の声を上げ、パリ五輪に向けては期限を切って「いついつまでに侵攻をやめなければ、両国選手の五輪参加は認めない」とする強いメッセージを発するべきだ。
東京五輪ではコロナ禍で国民の不安が募る中、IOCは1年延期した大会開催を日本に強引に押しつけた格好となった。IOCの金権主義、傲慢(ごうまん)さが際立ち、国内外の反発を買った。
札幌市が立候補している2030年冬季五輪開催地選定でもIOCの動きは不可解だ。当初は札幌市が最有力とされ、今秋にも札幌開催が決定する見込みだった。
ところが東京五輪での汚職、談合事件が相次いで発覚すると、ここでもIOCは方針を転換した。日本での五輪批判の高まりから逃れるように開催地決定を先送り。名乗りも上げていなかったスウェーデンを有力候補地として担ぎ出すなど、30年の札幌招致を困難な状況に追い込んでいる。
開催地選びの公平性や透明性を著しく欠いている。巨大な利益を生む安定した開催地を確保するのがIOCの最優先課題のように見える。
五輪は時代とともに変容し、多くの問題や矛盾を抱えながらも世界最大のスポーツ祭典に発展した。五輪理念をけん引してきたIOCへの信頼が揺らいでいる。パリ大会で五輪再生を目指すなら、水面下での駆け引きも染みついたIOCの体質を改善する必要がある。