経済財政諮問会議であいさつする岸田首相(手前)=25日、首相官邸
経済財政諮問会議であいさつする岸田首相(手前)=25日、首相官邸

 政府は2024年度予算の概算要求基準と、財政の中長期試算をまとめた。要求基準では岸田政権が目玉とする少子化対策に加え、物価高対策でも金額を明示しない「事項要求」を認め、今後の予算規模は膨張含みとなった。緩めの基準の背景には好調な税収があり、その効果で試算における財政健全化目標の見通しも改善した。

 しかし予算の3割を借金に頼り、国債の発行残高が1千兆円を超える深刻な財政事情に変わりはない。税収増に甘えて歳出改革や健全化の手綱を緩めるのは禁物だ。

 各省庁からの要求は8月末で締め切られ、一般会計の総額は100兆円を超える公算が大きい。政府は今年の「骨太方針」で、新型コロナウイルス対策で増大した歳出を平時に戻していくと強調した。年末の決定に向けて、無駄のない効果的な予算案に仕立てられるかどうかが試金石となる。

 要求基準を特徴づける少子化対策は、金額を示さない形の要求を認め「予算編成過程において検討する」とした。財源が詰まっていないためだ。政府は6月、少子化の反転へ対策の集中実施と予算の上積みを決定。財源では社会保障分野の歳出改革や、社会保険料に上乗せする「支援金制度」の創設などを挙げながら、結論は先送りした。

 新たな対策は児童手当を高所得世帯にも支給するなど、ばらまき色が濃い。今後の検討作業では歳出拡大を前提に財源を論じるのではなく、国民の負担を抑える中身と規模への再考を求めたい。

 物価高対策で事項要求を認めたのは、インフレの先行き不透明感に加え、岸田文雄首相と与党に次期衆院選への思惑があるからだろう。ここでも見過ごしてはならないのが歳出の内容である。これまでの対策の柱だったガソリン価格の抑制では、6兆円の予算が投じられた。

 マイカーのない人に恩恵が及ばない一方で、レジャーなどでの消費を支え、ガソリンの国内販売は22年度に前年度比で増加。化石燃料の消費抑制と脱炭素に逆行する結果となった。電気・ガス代とともに、対策による支援は低所得世帯などに絞ることが望ましい。

 税収増は岸田政権の政策運営を左右し始めている。防衛費を5年間で43兆円に増額する財源では、増税を当初の「24年以降」から先送りする議論が自民党内で優勢だ。だが国民が求めているのは増税の「先送り」ではなく、負担増とならない水準への防衛予算の見直しではないのか。好税収の恩恵面だけでなく、家計の重い税負担に目を向けてもらいたい。

 要求基準には「重要政策推進枠」が設けられた。「新しい資本主義」の施策を重点化し、めりはりを利かすためだ。例年同様の措置だが、これまで効果は乏しかった。増加する社会保障費と国債の償還・利払費で歳出の半分を占め、予算の硬直化が進んでいるからだ。歳出改革と健全化を抜きにして、打破は難しい。

 財政試算では、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が税収増で改善する一方、高めの成長でも目標の25年度の黒字化には若干届かない姿が示された。日本の実力に近い低成長が続く場合、黒字化は見通せず赤字が続くという。衆院選を意識した歳出拡大の声は今後さらに強まろう。健全化への岸田首相の覚悟が問われる。