全国知事会議であいさつする松本総務相(右から2人目)=25日、山梨県北杜市
全国知事会議であいさつする松本総務相(右から2人目)=25日、山梨県北杜市

 子どもと地球の未来をテーマにした全国知事会議が山梨県で開かれ、政府の少子化対策や、マイナンバーカードを巡るトラブル対応に厳しい意見が続出した。

 国は「次元の異なる少子化対策」を進めるとして、6月に拡充プラン「こども未来戦略方針」を決定した。だが毎年3兆円台半ばが必要とされる追加費用をどう工面するかの議論はこれからだ。

 対策の充実は、今後の衆院解散総選挙も意識した政治的なアピールという側面もある。国民や自治体の負担増につながるような財源論議を年末に先送りしたのは、キャッチフレーズ先行と批判されても仕方あるまい。

 全国知事会長の平井伸治鳥取県知事が、財源の裏付けがなければ「絵に描いた餅だ」と表現したのもうなずける。少子化対策を充実するなら、政府が用意する財源の内訳や、自治体負担に対する支援を早急に示す必要がある。

 知事側は、「こども未来戦略」の強化も求めた。国は子どもの医療費助成や幼児教育・保育の無償化などを進めている。しかし、国がカバーしていない部分は、財源に余裕がある自治体しか対応できない。これが自治体間の競争を引き起こしている。

 居住場所によって子育て支援が異なる事態を避けるため、知事側は、医療費助成などは全国一律のナショナルミニマム(国民生活の最低保障)として、国が責任を持って実施すべきだと主張した。国主導で少子化対策の充実を掲げるのであれば、考慮すべきだろう。

 一方、マイナンバーカードは、別人の銀行口座や健康保険証に誤ってひも付けられる例が次々と表面化。岸田文雄首相は混乱の沈静化を図るため、「総点検」を打ち出した。だが点検にかかる費用をどうするのかは流動的だ。

 知事側は、デジタル社会の基盤となるマイナンバー制度に対し、国民の信頼や理解を得るために総点検は必要だと認めている。

 しかし知事会議では、総点検の作業は市町村にとって負担が大きいことから、「この点検を最後にすべきだ」「政府の指示が不十分だったことでヒューマンエラーが発生している」として、国に反省を求める意見が相次いだ。総点検に必要な費用が自治体に押し付けられかねないことへの不満も出た。

 河野太郎デジタル相が昨年10月、「マイナ保険証」への切り替えを宣言し、2024年秋には保険証を廃止する方針を表明したが、自治体はこの唐突な政府の動きにほんろうされた。その結果、数多くのエラーが生まれたのは明白である。

 知事側は、自治体の意見を聞きながら点検作業の工程をまとめるように要請した。国はどのデータとのひも付けを点検するかなどを明確にし、点検費用についても自治体に負担が生じないよう十分配慮すべきだ。

 マイナンバー問題を巡る参院の閉会中審査で、河野氏はマイナカードの自主返納が増えていることを「重く受け止める」としたものの、保険証廃止の延期は否定した。

 政府は8月上旬に総点検の中間報告を公表し、秋までに完了させるという。日程ありきではなく、信頼回復を最優先し、自治体と話し合いながら点検しなければ、トラブルを繰り返すだけだと指摘したい。