中古車販売大手ビッグモーターの店舗=5日、東京都内
中古車販売大手ビッグモーターの店舗=5日、東京都内

 法令順守(コンプライアンス)は軽視と言うより、無視に等しい。企業統治(ガバナンス)は完全に欠如していた。中古車販売大手ビッグモーターの不正には開いた口がふさがらない。

 事故車両の修理を巡って、自動車保険の保険金水増し請求が全国の修理工場で長年横行していた。車をわざと傷つけたり、損傷が大きく見えるように写真を撮ったりと、手口は多岐にわたる。

 疑惑発覚後の対処も最悪だ。今回不正を認定したのは元検事長らでつくる同社の特別調査委員会だが、昨年初めに内部告発を受けた損害保険会社側から調査を強く要求され、今年になってようやく設置したものだ。発覚当初は損保側に「手続きミス」とごまかすような説明をしていた。もはや自浄能力に期待できない。外部のチェックが不可欠だ。国土交通省、金融庁は、道路運送車両法や保険業法に基づいて徹底的に調べ、全容を明らかにしてもらいたい。必要なら行政処分などにも踏み込むべきだ。

 ビッグモーターは非上場のオーナー企業だが、会社法上は「大会社」に該当し、知名度も高い。本来は大きな社会的責任を負っている。特別調査委の報告書によると、修理費を水増しするため、ゴルフボールを靴下に入れて振り回し車体をたたいたり、工具でひっかいたりして損傷を作っていた。ヘッドライトのカバーを割るなどの行為も確認された。

 さらに写真の撮影角度を変え、損傷が実際より広範囲のように見せたほか、不必要な板金作業や部品交換を実施した例などもあった。まさに不正のオンパレードだ。

 故意の損傷について、報告書は「刑法の器物損壊罪に当たり得る」と厳しく指摘した。当然だ。保険金の水増し請求自体も詐欺罪に該当する可能性がある。国交省などはそうした視点からも調査を尽くしてほしい。

 不正の始まった時期は明確ではないが、約5年前に修理部門の本部長が過大な収益のノルマを各工場長に課していたといい、報告書は「当時から保険金の不正請求が一部で行われていたことがうかがえる」とした。

 本部長は降格されたが詳細な調査は行われず、ノルマ重視は継続。修理車両1台の平均ノルマは14万円前後だったという。

 ビッグモーターは直近数カ月分の自主調査結果として、保険金の水増し請求を1300件弱、総額約5千万円としたが、氷山の一角だろう。不必要な保険を使うと契約者の保険料負担が増えることにもつながる。客観的な第三者機関による全件調査が必要だ。

 報告書からは、信じ難いガバナンスの実態も見えてくる。会社法の要件を満たす取締役会は開催されておらず、取締役会議事録は存在しない。内部統制の検討は行われず、コンプライアンス担当役員もいなかった。

 説明責任を果たそうとする姿勢も見えない。特別調査委の報告書については、7月初めに公式ホームページに「受領した」と掲載しただけで、内容は非公表。同月中旬、国交省が調査の意向を表明した当日にようやく公表したが、記者会見などは開いていない。

 報告書と同時に、社長の報酬全額返上1年などの処分も発表したが、これでは済むまい。経営陣の責任を明確にし、体制を刷新する。解体的な出直しが必要だ。