日米の製薬会社が共同開発した、アルツハイマー病の進行を遅らせるとされる「レカネマブ」(商品名レケンビ)の製造販売承認を厚生労働省の専門部会が了承した。同省は近く承認する見通しだという。
レカネマブは脳内に蓄積したアミロイドベータというタンパク質が病気の原因だとする仮説を基に開発され、アミロイドベータに結合し脳から排除する働きがある。投与対象は軽度の患者とその前段階の軽度認知障害の人に限られる。
臨床試験で示された効果はさほど大きくない。一方、脳の浮腫(むくみ)や出血など副作用がある。副作用の出やすい遺伝子型があり、先に承認された米国では投与前に遺伝子検査をすべきだとされている。日本でも遺伝子検査を必須とすべきで、政府は安全確保のための具体策を示すべきだ。
臨床試験では、レカネマブには症状の進行を1年半で27%遅らせる効果があったという。効果は症状の程度を0~18点で評価する尺度「CDR―SB」で測った。症状が進むほど点数が増える。
レカネマブを投与された集団とプラセボ(偽薬)を投与された集団を比べると、投与開始から1年半後の増加分はレカネマブが1・21、偽薬が1・66で、レカネマブの方が偽薬よりも27%少ない、という説明だ。増加分の差は0・45。これをどう見るか。認知症に使われるドネペジル(商品名アリセプト)の効果を軽度から中等度の認知症患者で調べた結果では、24週後の偽薬との差が「0・67」「0・5」という数字がある。
米ジョージタウン大などの研究者が7月に米医学誌に発表した論考によると、CDR―SBでの「臨床的に意味のある差」については1年間で「1~2・5」や「1・63」とする研究結果があり、レカネマブもドネペジルもこれを下回る。
ただ、研究の年代によって評価基準が異なる場合があり正確な比較は難しく、意味のある差について学界の統一見解もないという。薬を使うかどうか患者が判断するには効果の正しい評価が不可欠だ。臨床試験の透明性を高めるためにも評価手法を確立してほしい。
臨床試験での副作用発生率はむくみが13%(偽薬は2%)、出血が17%(9%)だった。多くは無症状だが、因果関係が指摘される死亡例が海外で3例ある。このため米国では、最も強い警告文の形式で「深刻な事象や生命を脅かす事象がまれに起こり得る」と添付文書に表示されている。むくみや出血が認知機能にどう長期的に影響するのか気になる。米国では今年3月、レカネマブや同様の働きをする物質により脳の萎縮が加速する可能性を示す論文が発表された。こうした懸念に答える研究が必要だ。
日本では2025年に高齢者の5人に1人が認知症になると推定されている。症状を改善する手段がない中で、認知症のリスクを減らすことに私たちも行政ももっと力を入れるべきではないか。リスク要因には45~65歳で難聴、高血圧など、66歳以上で喫煙、抑うつなどがある。リスクが高く難聴の高齢者に補聴器を提供するなどしたところ、健康に関する教育をしただけの人に比べ3年後の認知機能低下を48%遅らせたとの研究結果が米国で報告されている。そんな研究も進め、対策に生かしてほしい。