東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まったニュースを映す北京市内の大型画面=24日(共同)
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まったニュースを映す北京市内の大型画面=24日(共同)

 中国政府が、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を受けて「生態環境の破壊者」と日本を非難し、日本の水産物の輸入を全面的に停止した。魚肉ソーセージなど加工食品も対象になる。「消費者の健康を守るため」としている。香港政府も福島や東京など10都県の水産物輸入を禁止した。

 処理水については、科学的な安全性の検証を厳格に続けることは当然だ。だが、中国の対応は過剰だ。日本政府は日中の専門家や実務者レベルによる「協議の場」の設置を提案したが、中国は拒否した。中国が真に健康や安全を求めるのであれば応じるべきで、科学に基づく冷静な協議をするよう求めたい。

 日中関係が沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡る問題などで悪化する中で、中国は、処理水の問題を政治利用していると考えられる。

 中国の対応は初めから「反対ありき」だった。2年4カ月前に日本政府が放出方針を明らかにした時「関係国や国際原子力機関(IAEA)と見解が一致する前に放出を開始するべきではない」と日本を批判。連日のように外務省の定例会見で繰り返した。ちょうど日米首脳が共同声明で「台湾海峡の平和と安定」の重要性に言及し、中国が猛反発した時期だった。

 IAEAは今年7月、海洋放出計画について「国際的な安全基準に合致している」と評価し、処理水放出による人や環境への放射線の影響は無視できる程度との報告書をまとめた。

 これを受けて、これまで反対していた韓国は報告書を尊重する立場を示した。欧州連合(EU)も報告書を評価し、日本産食品に課してきた輸入規制撤廃に踏み切った。

 中国は逆に批判を強め、7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議や東アジアサミット外相会議でも、処理水を「核汚染水」として放出反対を訴えたものの、参加国への支持は広がらなかった。にもかかわらず、中国政府は「国際社会の強烈な反対を無視して一方的な放出をした」と非難している。

 中国は放出が始まる前の7月から日本の水産物に対する全面的な放射線検査を始め、水産物の輸出が滞った。

 中国側は「国民の健康のため」としているが、海洋放出前からの検査や、排出地点から遠く離れた海域まで含む水産物の輸入停止は、自国の意思を押し付けるための「経済的威圧」としか受け取れない。

 中国はこれまでも関係が悪化した国に対して経済的威圧を多用しており、政治利用は常とう手段だ。

 例えば、2012年には南シナ海の領有権問題で対立したフィリピンに輸入バナナの検疫を強化し打撃を与えた。

 22年の日本の水産物輸出先は、首位中国の871億円と香港の755億円で全体の約4割を占めており、輸入停止の打撃は大きい。日本政府は、風評被害対策と漁業支援に計800億円の基金を設置したが、この支援の枠組みでは対応しきれなくなる懸念も生じる。

 日本政府は、あらゆるレベルで輸入停止措置の撤廃を粘り強く働きかける必要がある。日中は9月のインドネシアでのASEAN関連首脳会議に合わせて首相会談を調整している。トップダウンで政策を決める中国とは、ハイレベルでの対話が欠かせない。