北朝鮮が再び「軍事偵察衛星」のロケットを打ち上げた。5月末の打ち上げと同じく、飛行中にトラブルが生じて失敗したが、弾道ミサイル技術を使った発射を禁じる国連安全保障理事会の決議違反は明白だ。地域の軍事的緊張を高める行為は、断じて容認できない。日米韓を軸に国際社会が結束し、北朝鮮への具体的な対応を模索することが求められる。
北朝鮮は2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会で採択された「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」で、「軍事偵察衛星」による「偵察情報収集能力の確保」を課題として掲げていた。失敗を繰り返しても衛星の発射に固執するのは、日米韓などの軍事的動向を把握する「目」を早期に獲得したいためだ。
北朝鮮が16年までに5回行った「衛星」の打ち上げは、民生目的を掲げていた。だが、前回の打ち上げに際しては「米国と追従武力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視、判別し、軍事的準備態勢を強化するために必須不可欠なもの」と表明しており、軍事目的であることを明言している。
こうした変化からは、日米韓の連携強化を強く意識し、金正(キムジョン)恩(ウン)総書記を頂点とした現体制を守るため、抑止力を強化したいとの思惑がのぞく。
米韓は今年4月に発表した「ワシントン宣言」で、核兵器を含む米戦力を背景に韓国への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」の強化で合意した。
また、今月に米ワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドで開かれた日米韓首脳会談では、軍事的脅威を高める北朝鮮や中国を念頭に、安全保障協力の強化を図った。こうした動きが、北朝鮮を大いに刺激したことは想像に難くない。
北朝鮮は、国際社会の反応を無視するかのように大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を繰り返し、その成果を誇示してきた。ICBMを実戦配備できる技術力を確保した上で、軍事偵察衛星利用を打ち上げようとする流れは、北朝鮮のミサイル開発が確実に進んでいることも示している。
ミサイルが飛距離と命中精度を高めることに加え、小型化された核弾頭が量産され、軍事偵察衛星が軌道に乗れば、安保上の懸念は極めて重大になる。
それでも、北朝鮮が衛星打ち上げを事前予告し、10月に3度目の発射を行うとまで言及できるのは、こうした動きに歯止めをかける国際的な枠組みが機能していないのを見越してのことだ。
北朝鮮がICBMを発射しても、友好国の中国とロシアが擁護し、国連安保理は一致した対応をとれずにいる。日米韓の連携強化が、北朝鮮と中ロのつながりを強める口実となり、結果として双方の緊張が高まることとなれば、地域の安定には逆行してしまう。北朝鮮と中ロが、日米韓の分断を図る可能性もあるだろう。
そうした中、日本の役割は重要だ。来年に米国は大統領選、韓国は総選挙を控えており、内政重視の姿勢が今後強まることは避けられない。日本が行うべきは北朝鮮に自制を促すため、米韓と連携しつつ、率先して対話と緊張緩和の糸口を探ることだろう。岸田文雄首相は、金総書記と条件を付けず対話に臨むとしており、圧力をかける一方で、その道筋を示すことは責務でもある。