ロシアのウクライナ侵攻から1年半が過ぎた。この間、米欧諸国から強力な軍事支援を受けたウクライナ軍は6月、領土奪還を目指して反転攻勢に踏み切った。ロシア軍の周到な防衛態勢に阻まれ難航しているが、ウクライナに不利にならない状況で停戦協議に持ち込むため、国際社会は支援の手を緩めてはならない。
ロシア軍はウクライナ東部と南部など全領土の約20%を占領し、一方的に併合した。6月に首都キーウ(キエフ)を訪問した米中央情報局(CIA)のバーンズ長官によると、ウクライナ側は当初、主要領土を早期に奪還して年内にも停戦交渉を開始するとの楽観的な見通しを描いていたという。
しかし、ロシア軍が敷設した広大な地雷原に阻まれて反攻は難航。戦果が出るのは、秋の雨期や冬の積雪期を経て戦闘が再び本格化する「来春以降」との見方も出ている。
1年半にわたる戦争でウクライナ、ロシアとも兵員に加え兵器や弾薬も不足、消耗戦となっている。欧米が支援を続ける限りウクライナはロシアに制圧されることはないが、ロシアを打ち負かすこともできない。「どちらも勝利できない」状況下で戦争は長期化。米英情報機関の推計によると、双方の死傷者数は数十万人規模に上る。
和平の前提条件としてウクライナのゼレンスキー大統領は、領土保全と占領地からのロシア軍の全面撤退を要求。一方、ロシアのプーチン大統領は、併合した地域をロシア領と認めるよう迫っており、双方の主張に接点はない。このため米欧は「戦場で結論を出す以外にない」と判断し、ウクライナ支援を強化してきた。
しかし、核大国ロシアの「核兵器使用のどう喝」を米欧が恐れ、強力な兵器の供与が後手に回ったことが、ウクライナ軍の反攻を困難にしている。優勢なロシア軍の航空戦力に対抗するためウクライナが強く望んでいるF16戦闘機が実際に戦場に投入されるのは、来春となる見通しだ。
ロシアは米欧に科された厳しい制裁を乗り越え、経済は回復基調にある。不足していたミサイルや弾薬などの生産も持ち直している。一方、米欧諸国にはウクライナ難民の受け入れや巨額の兵器供与などへの「支援疲れ」も目立ってきた。大統領選挙を来年に控える米国で「支援見直し論」が強まるか、世界が注視している。
ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国でありながら、国際法に違反してウクライナを侵略し、領土を一方的に併合。住宅など民間施設にミサイルを撃ち込み、核攻撃を示唆して脅している。ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意から離脱し、世界の穀物供給を不安定化させた。ロシアの暴挙を許すことはできない。
米欧や日本など先進国と対立を深めたロシアは、中国、インド、ブラジル、南アフリカなど新興・途上国との関係強化を急いでいる。依拠するのは新興5カ国(BRICS)と上海協力機構(SCO)である。ただ、新興国の中にはインドのようにロシアのウクライナ侵攻に批判的な国もある。
日米欧など先進国は、対ロシア制裁、ウクライナへの財政・軍事支援を維持しながら、今後は新興・途上国を巻き込んでロシアに対する停戦圧力を強めていくことが重要だ。