ガソリン価格の上昇は確かに深刻だ。4カ月近く上昇が続いて、全国平均の小売価格は1リットル当たり185円を超え、最高値になっている。
岸田文雄首相は価格抑制のためのガソリン補助金の期限を9月末から年末まで延長した。中小・零細が多い運送業や、車を使わなければ買い物や病院にも行けない地方の人たちの負担を軽くすることができる。暮らしや仕事を守るのに役立つ補助金であり、延長するのは当然のように見える。だが「激変緩和のため」としてガソリンの補助金が始まったのは、ウクライナ情勢の緊迫で資源価格が高騰した2022年1月のことだ。
あれから1年8カ月たつが、政府は何をしていたのだろうか。中東産油国はロシアと足並みをそろえて原油の増産に応じていない。円安も日本と米国の金利差が背景にあり、本格的に反転する気配はまだない。ガソリンの値段は高止まりする可能性がある。
資源価格は物価全体に影響する。国際的な資源不足が続くことを想定した対策が必要だろう。直ちに補助金を打ち切るのは難しいが、エネルギー情勢の変化に合わせ、燃料油の価格制度や税制を見直す必要があるはずだ。こうした改革を検討する姿勢を見せないまま延長するのは、あまりに漫然とした対応ではないか。
ガソリン補助金は効用が大きい半面、車を利用しない人には恩恵が少なく、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などに買い替えた人のメリットも小さい。小型車より燃費が劣る大型車も対象であり、価格上昇に伴うガソリンの消費抑制効果は小さくなる。
3月末までに3兆円超の財政資金が補助金として使われた。首相はガソリン価格を175円に抑えるため、縮小してきた補助を拡充するという。段階的に補助金の規模を小さくし、廃止につなげる方針を一転させた。
ガソリンと並んで、軽油、灯油、重油も補助対象になる。補助金の延長は年末までとしているが、暖房の需要期を迎える灯油への補助を年末に打ち切るのは難しいのではないか。期間はさらに延びる可能性がある。
ガソリン価格には地域差がある。山形、長野、長崎、鹿児島各県は190円を超えている。製油所から遠かったり、給油所が減少し価格競争がなくなったりしていると、値上がり幅は大きくなる。
ガソリン補助金は石油元売りを通じて卸価格を抑えている。だが価格の地域差や、灯油の需要が寒冷地に偏っていることを考えれば、資金の一部を自治体経由とし、地元の実情に応じた支援ができる選択肢もほしい。
全国一律に補助する現行の仕組みは「ばらまき型」であり、地域はもとより所得層や車種を絞って給付する仕組みがもっと必要だろう。タクシー、運送業などの環境対応車への買い替えを促すなど、ガソリンの値上がりに強い体質をつくる対策も欠かせない。
補助金や助成金は暮らしや仕事に密着していればいるほど、打ち切るのが難しい。ロシアとウクライナの戦争が続き、国際的な原油価格が落ち着く見通しは立っていない。最終的に6兆円を超えるともいわれる巨額の補助金から抜け出すのはそう簡単なことではない。
成り行きに任せず、将来につながる改革を探ることこそ、出口への近道にほかならない。