47都道府県の知事を束ねる全国知事会の新しい会長に、村井嘉浩宮城県知事が就任した。知事会は新型コロナウイルスや物価高騰などの対策で積極的に政策を提案し、国政に影響を与えてきた。村井氏のかじ取りに注目したい。
村井氏は、1期2年会長を務めた平井伸治鳥取県知事からの交代。平井氏の下では副会長や新設した国民運動本部長を担った。政策提言集団「令和国民会議」(令和臨調)と連携する有志の知事連合の代表世話人でもある。
会長選では12知事の推薦を集め無投票で当選しており、順当な昇格と言える。「共に闘う知事会」を掲げた平井路線を引き継ぐとしており、国に対して、是々非々で臨む姿勢を維持すべきだ。
新路線としては、全国的な人口減少を踏まえて、行政のスリム化について議論を深める考えを選任後の記者会見で示した。人口減のため職員数は増やせない半面、都道府県の仕事は増えている。行政の効率化、国と地方の仕事分担の見直しが課題となる。
村井氏は、都道府県をなくして道州に再編する「道州制」推進論者として知られているものの、会見などでは「国がやる気がないと動かない。今は様子を見ながら準備する」と述べるにとどめた。
岸田政権の道州制への意欲は乏しい。知事会でも州都となるような都市がある府県は前向きだが、それ以外の府県との温度差は大きい。スリム化が道州制の拙速な議論につながることは避けなければならない。
このほか村井氏は、訪日客の誘致のため、知事会として共同で海外PRに取り組むことも提案した。単独でのPR活動には予算や人員の面から限界があるだけに、現実的な対応と評価できる。
知事会は、岸田文雄首相の進める「次元の異なる少子化対策」では、重要なパートナーである。こども家庭庁が4月に発足したとはいえ、少子化対策のグランドデザインは描けておらず、中身はこれからというのが知事会の受け止めだ。
東京都のように出生率が低い所もあれば、出生率は比較的高いが若者が少ない所もある。自治体によって事情が異なるだけに、国には医療費助成など全国一律のナショナルミニマム(国民生活の最低保障)としての対策を求めた上で、自治体が自らの判断で使える予算を増やすよう積極的に提案すべきだ。
東京一極集中を背景として、企業が納める地方法人2税(住民税、事業税)の税収が、東京都など大都市に集中してきている。地方との格差の広がりが課題だ。この偏在性を是正するため、国税として徴収後に人口などに応じて自治体に再配分する特別法人事業譲与税が既に導入されている。
来年度予算に向けた政府の経済財政運営の指針「骨太方針」は「税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築に向け取り組む」と表明した。知事会も地方税の充実と、偏在性の小さい地方税体系の構築を提言している。
今後、再配分額を増やすかどうかが地方財政の最大の焦点となる。これに対し、税収減に直結するだけに東京都などが強く反対することは明らかだ。村井氏は大都市側の理解をどう得るのか。知事会長としての手腕が問われる。