国土交通省が7月1日時点の都道府県地価(基準地価)を発表した。東京圏の商業地が11年連続など三大都市圏の商業地、住宅地は続けて上昇している。地方圏でも住宅地が31年ぶりにプラスに転じ、商業地も4年ぶりに上がった。この地方圏の上昇は注目したい。
住宅地の上昇要因では、人口の集中や低金利を受けて三大都市圏と、札幌、仙台、広島、福岡という地方4市の住宅需要が堅調なことがある。さらに地価が高い所を避けて周辺都市の住宅地を選ぶ人の増加によって、地方圏のプラス地点が広がっていると分析できる。
商業地が上がった理由には、新型コロナウイルス感染症の流行によって在宅勤務が普及して一時落ち込んだオフィス需要が戻りつつあることがある。景気の緩やかな回復、外国人観光客の増加も挙げられる。
地方圏を詳しく見ると、札幌など4市を除いた地域の住宅地は、下落幅は縮小しているものの前年に比べ0・2%減だった。全体では4市の高い伸びに引っ張られて31年ぶりの上昇となった。一方、4市を除いた商業地は前年に比べプラス0・1%となり32年ぶりに上がったことは注視が必要だ。
というのも、コロナの影響で地価が下がり過ぎた反動からプラスとなった面もあるからだ。この上昇傾向が続くかどうかは見通せないと言える。
地方4市を除き138ある地方圏の人口10万人以上の都市で見ると、松江、出雲、米子を含め上昇・横ばいの都市は、住宅地、商業地とも半数を超えている。これらは三大都市圏や札幌、広島、福岡近くの都市や、県庁所在地で目立っている。
プラスの県庁所在地が多いのは、高齢者を中心に利便性の高い所に移り住む都心回帰が進んでいるためだ。今後もプラスの傾向を維持するには、まちづくりがさらに重要になると指摘できる。東京一極集中など、地方から大都市への人口流出が継続する懸念が強いからである。
政府は東京一極集中の是正策として2014年に「地方創生」を打ち出し、岸田政権も「デジタル田園都市国家構想」で踏襲するが、この傾向が変わる兆しは全く見えない。
日銀が進める大規模な金融緩和政策の修正も地価に影響する。修正に伴い住宅ローンの金利が上がる局面も想定される。そうなれば住宅購入が控えられ地価下落につながる可能性も出てくる。
地価の上昇は、市町村の基幹税目である固定資産税の税収増につながる。地価を維持して自主財源を安定的に確保するためにも、人を呼び込む政策をこれまで以上に強化する必要がある。
具体的には、都市再生の手法を駆使して周辺部から都心への回帰を促し、コンパクトなまちづくりを提案したい。
利便性の高い駅前の空き地を青空駐車場として放置するのではなく、再開発をして商業施設やマンション、事務所ビルを整備する。都市部からのリモートワークの受け皿として、空きビルや空き店舗の活用も有効だ。
県庁所在地以外の都市となると、地価の維持はより難しくなるだけに工夫が不可欠だ。生活圏を形成する中心地として病院や学校、商業施設の機能を守ることや、災害への強さ、再生可能エネルギーとの共生、観光客からの人気といった個性、特性を生かすことを重視したい。