パレスチナのイスラム組織ハマスによる奇襲を機に起きたイスラエル軍とハマスの戦闘開始から約1カ月。イスラエル軍の攻撃でパレスチナ自治区ガザの人道危機は極めて深刻な状況に陥っている。
その中で、先進7カ国(G7)の外相が戦闘開始後初めて対面による会合を東京で開き、外相声明を発表した。声明はガザへの人道支援の継続的な供給と、その前提となる戦闘の「人道的休止」の実現を支持することで一致。イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」が平和への唯一の道だと確認した。
議長を務めた上川陽子外相はハマスのテロ攻撃を非難すると同時に、「ハマスが拘束している人質の即時解放と、ガザの人道状況の改善が最優先だ」と強調した。
イスラエル軍は住宅密集地であるガザ市の中心部に向けて進軍、徹底抗戦の構えを崩さないハマスと激しい戦闘を展開している。約1カ月の戦闘で、ガザ側の死者は1万人を超え、イスラエル側でも1400人以上の犠牲者が出ている。
これ以上の犠牲者を出さないためにどう知恵を絞るのか。一日も早い事態の収束に向けて、国際社会は結束して働きかけを強める必要がある。
7日夜の中東情勢に関する協議は予定を大幅に超え、約2時間10分に及んだ。各国の主張の違いを浮き彫りにするものと言えよう。しかし、違いを乗り越え、声明をまとめた意義は大きい。G7として、事態の打開に一致して動くべきだ。
ガザ地区の人道危機は「悪夢」(グテレス国連事務総長)の段階に至っている。イスラエル軍による「ハマス壊滅作戦」の名の下に病院や学校、救急車までもが攻撃の標的になっており、市民らは明日の命を永らえる場所すら失いつつある。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によれば、人口200万超のガザで、約150万人が避難民となった。戦闘の死者は1日平均で400人近くに上る。これ以上放置はできない。
イスラエル軍が主張するのは、「戦闘に市民が巻き込まれるのは避けられない」(軍報道官)という旧時代の戦争論だ。ガザ側の死者数にハマス戦闘員が含まれるのは自明だが、民間施設への攻撃は国際法違反の疑いが強い。何よりガザから伝わってくる多くの子どもたちの遺体が訴える事実にどう応えるのか。
イスラエルへの影響力行使を期待される米国のバイデン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、ハマスが拘束する人質の解放に向けて3日間の戦闘中断を要請。だがネタニヤフ氏はハマスへの不信感を理由に応じなかったとされる。
ガザでの核兵器使用すらちらつかせた極右閣僚を有するネタニヤフ政権が、ガザ市民の死者増加を理由に停戦に応じる可能性は高くない。たとえそうだとしても、事態の根本解決にはパレスチナ国家の樹立を前提とした「共存」しか選択肢がないことを、G7が主導してイスラエルに粘り強く訴えたい。
ガザ侵攻はハマスのテロに対する復讐(ふくしゅう)心を満足させるかもしれない。しかし不要な犠牲は、イスラエルだけでなくユダヤ人全体に対する世界各地のイスラム教徒の怒りをあおり、将来のテロリストを再生産する可能性すらはらんでいることをネタニヤフ氏は知るべきだ。