世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の記者会見=7日午後、東京都渋谷区の教団本部
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の記者会見=7日午後、東京都渋谷区の教団本部

 教団トップの「おわび」に心がこもっているとは、到底思えなかった。高額献金の被害を訴える元信者らはさぞ落胆し、憤ったに違いない。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が記者会見し、政府の解散命令請求への対応を説明した。その中で「このような事態に至り、心からおわびする」と頭を下げながらも、具体的な被害者に対する謝罪は否定した。

 解散命令請求に対する司法判断の確定前に、海外送金などで教団財産が散逸する懸念を払拭するため、最大100億円の「特別供託金」を用意すると発表したが、実現性は不透明で、これを受け入れる制度を作るよう国に要求したに過ぎない。

 結局、解散命令請求に加え、野党が独自法案を提出するなど国会で始まっている財産保全策の議論をけん制し、改革姿勢をアピールしただけではないのか。真摯(しんし)な「おわび」には程遠いと言わざるを得ない。

 田中会長の会見は、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で旧統一教会を巡る高額献金問題などがクローズアップされて以降、3回目だ。過去2回の会見は事件直後で、問題視される高額献金が行われないように教団がいかに努力してきたかが強調されたが、今回もその域を出なかった。

 高額な献金などがあったことは認めながらも「勧誘した信者の説明不足」や「経済事情などへの配慮不足」が原因とし、教団の組織的な関与は否定。あくまで信者の指導が不十分だったとの態度に終始した。

 謝罪を拒んだことについても「教団に過ちがあれば謝罪するが、現在は被害が特定されていない。解散命令請求の裁判が始まり、謝罪には距離を置く」と主張。裁判では全面的に争い、不利になることは避ける考えが明らかだった。

 「特別供託金」は解散命令が確定した場合に行われる教団の清算に際して、元信者らへの被害補償の原資にするという。解散命令が出なければ、教団に供託金を戻させるつもりのようだが、それもおかしい。

 解散命令の可否と賠償責任の有無は、イコールの関係にはない。解散命令は宗教法人に対する究極の処分であり、それが退けられたとしても、賠償責任まで否定されるわけではない。

 供託は現金などを法務局に管理してもらう制度だが、法令で認められている場合に限られている。田中会長の発言は、財産保全よりも特別供託制度の法整備を、と言っているのに等しい。

 100億円が確保できたのなら、被害の訴えと真正面から向き合い、誠実に対応すべきだ。被害対策弁護団はこれまでに、124人分、約39億円の賠償を教団に請求し、集団交渉を申し入れているが、進展していない。請求額はさらに膨らむ可能性がある。

 田中会長は会見で「弁護団が集団交渉にこだわるため、交渉が滞っている」と述べたが、なぜ集団交渉を回避したがるのか。理解できない。

 共同通信の10月の世論調査では、政府の解散命令請求を「評価する」とする回答が86・2%に上った。教団に対する国民の不信感は根強い。

 被害者への賠償などすべての対応をした上で、いったん自主的に解散し、再出発する。それぐらいの覚悟が教団にないと、この問題は解決しない。