もはや「事務的なミス」という言い逃れは通用しまい。政治資金収支報告書の信頼性を根底から覆す行為で、徹底した説明責任と、「闇」の解明が求められる。自民党の最大派閥・安倍派(清和政策研究会)が開催した政治資金パーティーで、パーティー券の販売ノルマを超えた売り上げを政治資金収支報告書に記載せず、集めた所属議員に還流させるキックバックを続けていた疑惑が表面化した。最近の5年間で1億円以上の「裏金」になった可能性があり、東京地検特捜部が政治資金規正法違反の疑いで調べているという。
不可解なのは、安倍派の塩谷立座長の対応だ。11月30日にキックバックの慣習があるのか問われ、いったんは「そういう話はあったと思う」と事実上認めたものの、その日のうちに「事実を確認しているわけではないので、撤回したい」と述べた。これでは疑念が膨らむばかりだ。なぜ発言を変えたのか、明確に説明しなければ国民は納得しないだろう。
派閥のパーティーを巡っては、2018~21年に開かれた5派閥の収支報告書に計約4千万円の過少記載があったとして学者が刑事告発し、各派とも慌てて修正した。このケースは購入した政治団体に支出の記録があるにもかかわらず、そのすべてが派閥側の収入として記載されていなかったことから発覚した。複数議員が同じ団体に販売し、「名寄せ」が不十分だったとしている。
「政治とカネ」の問題で、最も肝心なのはカネの「収入」と「支出」を収支報告書に正確に記載して、透明性を確保することだ。ノルマ以上のパーティー券を売った議員に報いたいならば、派閥と議員側の収支報告書にその分を記載すれば法的に問題がないはずだ。
安倍派の今回の疑惑が事実ならば、「収入」も「支出」も隠蔽(いんぺい)した虚偽の報告書を提出していたことになり、極めて悪質だ。パーティー券の代金が議員個人の領収書不要の使い勝手のいいカネに化けたと疑われても仕方ない。政治資金規正法に基づく制度の根幹を揺るがす背信と言える。
政治資金規正法は、1回のパーティーで20万円を超える購入者・団体名を収支報告書に記載することを規定している。5派閥では、一晩で9千万円から2億円余りを売り上げる大きな資金源となっているからこそ、ありのままの収支を記し、国民の不断の監視の下に置く作業が欠かせない。
過少記載が国会で追及された際、岸田文雄首相らは、パーティー収入の総額は変わらないと強調。裏金づくりではないか、との指摘を全面否定した。
ただ、告発はパーティー券を購入した政治団体の収支報告書と照らし合わせて判明したのであって、報告する必要のない企業や個人の購入に関しては把握できないのが実態だ。
物価高に苦しむ国民は、政治とカネの問題に敏感にならざるを得ない。立て続けに明るみに出たずさんな処理に、政治不信は積み重なる。安倍派は憲政史上最長政権を支えた100人規模の集団だけに、重い責任を負う。低支持率に苦悩する岸田首相は自民党総裁として、各派閥に対してパーティーの収支の総点検をさせ、その結果をつまびらかにしない限り、不信を払拭できないと認識しなければならない。