記者会見する、公選法違反の罪に問われた元広島市議(左)。供述を誘導されたとして無罪を主張している=10月26日、広島市
記者会見する、公選法違反の罪に問われた元広島市議(左)。供述を誘導されたとして無罪を主張している=10月26日、広島市

 2019年参院選の大規模買収事件を巡り、公選法違反(被買収)の罪に問われた元広島市議に不起訴を示唆し、供述を誘導したと指摘された東京地検特捜部の検事による取り調べについて、最高検は「不適正」とする調査結果を公表した。特に不起訴を期待させたり、否認すれば強制捜査になるとほのめかしたりした発言を問題視した。

 その上で、組織的な指示は認められず、虚偽の供述をさせたことはなかったと結論付けた。河井克行元法相から妻案里氏のために票の取りまとめを頼まれ現金30万円を受け取ったとされる元市議は、ひそかに録音した任意聴取などのやりとりを暴露。起訴は違法として無罪を主張している。

 広島地裁は有罪判決を言い渡す一方で「不起訴を前提として取り調べたことは否定できない」と判断した。ただ最高検の調査は、特捜検事がそのような取り調べに及んだ動機や背景には十分踏み込んでいない。組織的な指示の有無を巡っても、本人や上司の「なかった」との説明をそのまま受け入れたに過ぎない。

 内部調査の限界だろう。元市議を含め7人が供述誘導を訴えたが、その点について裁判所も審理にあまり時間を割いていない。取り調べでの裏取引の疑念は拭えない。国民の大きな期待を背負うような捜査でも、取り調べの適正さを欠けば理解は得られないことを検察は忘れてはならない。

 河井元法相の買収事件で、検察は元法相夫妻を逮捕・起訴。被買収側の地方議員ら100人を一律不起訴にした。「一連の犯行を主導した夫妻を処罰することが事案の本質に見合っている」「被買収側の大半は断り切れず、受動的な立場で受け取った」などと理由を説明したが、この異例の処分に、不起訴と引き換えに供述を得る事実上の司法取引をしたのではないかと疑念が広がった。

 元市議は20年3月から夫妻が逮捕された6月にかけて、特捜検事の任意聴取を受けた。最高検の調査では、元法相から渡された現金について「陣中見舞いだと思った」と買収の趣旨を否認する元市議に、検事は「議員を続けてもらいたいと思っている」「任意捜査が強制になると、今と比べものにならない」などと発言。買収の趣旨を認める供述調書をまとめた。

 元市議は被買収で起訴されて有罪が確定すれば失職するため不起訴を望んでいたのは想像に難くない。検事は調査に「不起訴の約束はしていない」と述べたが、最高検は「処分の結果は定かでない旨を十分強調したとは言い難い」とした。

 また元法相の公判への証人出廷に向け、元市議が「証人テスト」と呼ばれる検察との打ち合わせが12回も行われたことについて「回数を重ねることで、検察側に都合がいいように記憶が塗り替えられる恐れがある」と指摘する専門家もいる。

 元市議はいったん不起訴になったが、検察審査会の議決を経て略式起訴されて正式裁判を求め、現在は控訴している。10年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件以来、法務・検察は供述への過度な依存からの脱却を掲げて改革を進め、検察独自捜査で逮捕後の取り調べは全て録音・録画することが義務付けられた。だが元市議のケースでは、その対象外の任意聴取で不適正な対応が明らかになった。改革はまだ道半ばだ。