自民党絡みの「カネ」の事件が、底なしの様相を呈している。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で東京地検特捜部の捜査が進む中、前法務副大臣の柿沢未途衆院議員(自民を離党)が別の公選法違反(買収など)容疑で特捜部に逮捕された。
今年4月の東京・江東区長選で、支援の候補者を当選させるため、区議らに計約260万円を提供するなどした疑いが持たれている。柿沢議員は一部について後援会に文書で釈明したものの、詳細な説明は避けたままだ。
区長選の約5カ月後に法務副大臣に就任しながら、候補者の違法な有料動画広告に関与した疑惑でわずか1カ月半で引責辞任した。「法の番人」の政務三役として職責を果たせなかったのだから、せめて「選挙とカネ」の実態をありのままに語るべきだった。その責任は放棄されたままだ。
問題の区長選は、元自民衆院議員で無所属の木村弥生前区長(11月に辞職)と自民推薦の元都議が対決する「保守分裂」選挙だった。柿沢議員の逮捕容疑は、同時に逮捕された秘書4人との共謀分を含め、区長選前後の今年2~10月、区議ら10人に計約260万円を提供するなどしたというものだ。
最初に疑惑が発覚したインターネットに約38万円で動画広告を掲載した件も容疑になった。
区長選と同じ日程で区議選が行われており、自民系区議らへの現金については、柿沢議員は後援会への配布文書で「1人20万円を区議選の陣中見舞いで渡した」とした。
ほかに木村前区長を支援した元区議に選挙後、顧問料名目で月20万円を数カ月提供したことも明らかになっている。元区議は区議選で落選していた。この資金提供も逮捕容疑に含まれているとみられる。元区議には、木村前区長側も選挙後、生活費名目などで100万円を支払っていたという。「陣中見舞い」に「顧問料」「生活費」。さまざまな名目で不透明な資金が動いていたことに驚かされる。
柿沢議員は任意聴取に買収の認識を否定していた。刑事責任の有無は捜査の推移を見守るしかないが、有権者の目には、カネまみれの区長選と映りかねない。
江東区はそのまま柿沢議員の選挙区(衆院東京15区)だ。自民以外の複数の政党を渡り歩き、自民候補と対決したこともあった。2021年衆院選は、自民推薦を受けて当選し、追加公認を受けた。こうした経緯から、自民都連には柿沢議員に対するアレルギーが強かったという。都連が推す元都議を制し、木村前区長を当選させることで、地盤を強固にする意図があったのではないか。
柿沢議員や木村前区長には、聞きたいことが山ほどある。
自民派閥の裏金事件では、安倍派(清和政策研究会)事務所の政治資金規正法違反容疑での家宅捜索に続いて、事務総長経験者ら同派幹部の任意聴取が行われた。
さらに一部パーティー券収入のキックバック(還流)を受け、裏金化していたとされる複数の同派国会議員の議員会館事務所などへも家宅捜索が入った。
捜査は拡大しているが、党、派閥や捜査対象の幹部、議員からは納得のいく説明はない。柿沢議員と同じだ。このままでは、国民の政治不信も拡大する一方だ。