原子力規制委員会は、テロ対策の不備で事実上の運転禁止命令を出していた東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)について、改善が確認できたとして命令を解除した。東電は再稼働に向けた手続きを進める方針だが、甚大な被害をもたらした福島第1原発事故の対応は不十分なままだ。信頼回復にはほど遠く、課題は山積している。
東電は事故の原因企業としての責任や大電力会社が社会に与える影響の大きさを真剣に受け止め、生まれ変わる努力を尽くし、社会的な信頼の獲得を最優先とするべきだ。
柏崎刈羽6、7号機は原発事故後の2017年12月に規制委の審査に合格したが、21年1月以降、社員によるIDカード不正利用や侵入検知設備の故障などの不備が相次いで発覚。規制委が核燃料の移動を禁じる命令を出し、運転できない状態となっていた。
規制委は追加検査で東電の改善状況を確認、原発を運転する適格性については「廃炉をやりきる」「安全を最優先する」と定めた保安規定を守っていることを再確認したとしている。だが、山中伸介委員長が「(解除で)お墨付きを与えたつもりはない」と言うように、再稼働に突き進む前に東電がやるべきことは多々ある。
企業の社会的責任の議論をする時のキーワードに「社会的な操業許可」という言葉がある。真摯(しんし)に損害賠償に取り組むと言いながら東電は、裁判外紛争解決手続き(ADR)を次々と拒否し、被災者に長い時間と資金が必要な訴訟を強いている。「やりきる」という廃炉の進捗(しんちょく)ははかばかしくなく、技術開発を含めた説得力のあるロードマップを示せていない。
多核種除去設備(ALPS)処理水の放出にしても、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地探しにしても、国の陰に隠れ、汚染者、排出者としての責任を果たしているとは言い難い。東電は日本でも二酸化炭素(CO2)排出量の多い企業だが、中部電力と折半出資する発電会社JERA(ジェラ)は、神奈川県内に巨大な石炭火力発電所2基を新規に建設。このほど2号機を予定より前倒しして運転を始めた。その姿勢は環境保護団体などから厳しい批判を浴びている。
新たなCO2の大排出源を稼働させる一方で、2基の原発を再稼働させたとしても、今、求められている短期間での大幅な排出削減に貢献するとは考えられない。
原発の発電コストは上昇傾向にあり、再稼働にはさらに費用がかかる。発電コストが急速に下がっている再生可能エネルギーではなく、原発に多大な投資をすることにどれだけの意味があるのかは明確にされていない。
このような企業が「社会的な操業許可」を得て、原発再稼働に進めるとは思えない。
再稼働が必要だと言うなら東電は、社会的責任に応えるための自らの姿と将来プランを明確にし、その中で原発の位置付けと必要性を説得力ある形で社会に示すべきだ。
これらの問題に関する利害関係者は、新潟県民だけではない。日本全国、場合によっては周辺国の市民に対しても正面から向き合う努力が求められる。規制委の審査を経て地元の理解さえ得られれば、再稼働が実現できると考えたら、それは大きな間違いだ。