地域の魅力を発表する6年生=出雲市野郷町、市立伊野小学校
地域の魅力を発表する6年生=出雲市野郷町、市立伊野小学校

 北に日本海、南には宍道湖が広がる出雲市の伊野地区。人口1169人、高齢化率39%の地域にある市立伊野小学校(野郷町)の体育館に2023年11月下旬、6年生児童11人が決意の声を響かせた。

 「課題はあるけど、他の地域に負けない素晴らしいものがたくさんある。地域の方が守ってきた伊野を私たちが受け継いでいきたい」

 同校の学習成果発表会。住民が培ってきた知識や技術を学べるカフェの開設、伝統行事を継承する仕組みづくりなど、目指すべき地域の将来像を児童が発表した。詰めかけた住民が児童に向ける温かいまなざしには、見守ってきた子どもが成長した喜び、次代への期待が詰まっていた。

 人口動態調査によると、島根県の出生数はピークだった1947年の3万2534人から2021年には4415人まで減少。今後も児童、生徒の減少は続く。

 島根県内の市町村立小学校は現在196校、中学校は92校、義務教育学校2校。平成の大合併があった04年以降、統廃合によって小学校は77校、中学校は15校減った。今、県内で統廃合議論がさらに加速し、検討対象は60校を超える。

 約10年前、伊野地区は学校統廃合の波に襲われ、乗り越えた。児童数減が見込まれた伊野小は12年に市教育委員会が示した小中学校再編方針で、近隣の檜山、東両小学校との統合方針が浮上。地区は2年以上にわたる協議の末、存続の道を選んだ。

 行政にあらがい、存続を決断したのは、廃校による地域衰退への危惧。学校というシンボルがなくなれば、地域の希望となる子どもが減ってしまう危機感があった。

 「学校を残して本当に良かったと思える地域や学校づくりをしないといけない」。統合を「拒否」する決断と同時に住民は地域への責任を背負った。1口5千円の寄付を募り子どもの修学旅行費に充ててもらう独自制度を創設し、人手が足りない学校のプール掃除は住民が買って出た。地域の学校を守るため、大人たちが覚悟を決めた。

 市教委の統廃合方針が示された12年度に66人だった児童数は、当時、22年度は48人に減ると推計された。しかしUターンが進み、23年度の児童数は67人と推計を覆した。学校に注ぐ地域の熱意。伊野地区の取り組みは、各地で浮上する統廃合問題に一石を投じているようにみえる。

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・学びの変革~人口減少時代の教育~ 子どもたちの未来、今こそ考えるとき 地域と児童、つながり守れるか 統合問題から10年、進む少子化
 

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