自民党を離党した衆院議員が年末に選挙買収の疑いで逮捕されてから、わずか10日後である。自民安倍派(清和政策研究会)の裏金事件で、池田佳隆衆院議員(比例東海)と政策秘書が政治資金規正法違反(虚偽記入)容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
最近5年間に派閥の政治資金パーティーの収入から計約4800万円のキックバック(還流)を受けたのに、政治資金収支報告書に記載せず、裏金にした疑いが持たれている。初の逮捕者だ。
安倍派所属議員99人の大半が同様に還流を受けたとされ、この中には派閥幹部も含まれる。池田議員は特に高額だが、すべての議員について全容を明らかにし、適正な刑事処分をすることが不可欠だ。
ほかにも捜査の課題がある。この事件の核心は、不正が派閥主導で行われ、裏金総額が6億円近くに上る可能性があることだ。議員側への還流分は安倍派の収支報告書の収入、支出のいずれにも記載されていない。
特捜部は歴代事務総長ら中枢幹部の関与の有無を明確にしなければならない。池田議員らの逮捕は同派の刑事責任追及の第一歩に過ぎない。
池田議員の逮捕容疑は2018~22年、パーティー券の販売ノルマの超過分として安倍派から還流を受けた500万~1378万円(総額4826万円)を、資金管理団体の各年の収支報告書に一切計上しなかったというものだ。同時に逮捕された会計責任者である政策秘書との共謀を認定された。
規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課しており、政治家は会計責任者との共謀がある場合に刑事責任を問われる。それには厳格な立証が要求され、具体的に報告を受け、詳細に指示したなどの証明が必要だ。
自民の薗浦健太郎元衆院議員は22年に、パーティー収入など約4600万円を収支報告書に計上しなかったとして略式起訴され、罰金刑を受けた。メールなどが会計責任者への指示を裏付ける決め手になった。
特捜部は昨年末、池田議員の議員会館事務所などを家宅捜索しており、こうした捜査で証拠を発見したはずだ。逮捕の理由は「具体的な証拠隠滅の恐れが認められた」としている。
安倍派の各議員が受け取った還流金の額はさまざまだ。池田議員と同様に、関係先が家宅捜索を受けた大野泰正参院議員は5千万円を上回るとされる。事務総長を務めた松野博一前官房長官や、世耕弘成前参院幹事長らは1千万円を超すという。その一方で、極めて少額の議員も存在する。
立件の基準となる額は、薗浦元議員の事件が前例となろうが、刑事処分は裏金の使途など悪質性を見極め、総合的に判断して決めるべきだ。
最終的に検察審査会による審査も予想される。特捜部は、合理的で国民が納得できる処分をしなければならない。
立て続けに関係する現職国会議員が逮捕された自民は満身創(そう)痍(い)の様相だが、逮捕直後に池田議員の除名処分を決めたことは拙速に過ぎ、「トカゲのしっぽ切り」のそしりを免れない。
還流金による裏金づくりは、安倍派で長年、まん延していたとみられる。不正を主導した可能性が高い派閥上層部の責任は重大だ。真相究明はこれからなのだ。