地震で寸断された石川県輪島市の道路。政府は震災対応として2024年度予算案の一般予備費を倍増することを決めた=15日午後
地震で寸断された石川県輪島市の道路。政府は震災対応として2024年度予算案の一般予備費を倍増することを決めた=15日午後

 能登半島地震は死者が230人を超え、なお多くの被災者が避難生活を送る。家屋の倒壊や焼失、道路の寸断など被害は甚大で、被災者の救援をはじめ生活再建、インフラの復旧などに切れ目なく手を差し伸べていかねばならない。

 その際に肝心なのが国の財政的なバックアップであり、政府は2024年度予算案の一般予備費を5千億円増やし、計1兆円とすることを決めた。被災地支援はスピードが重要なため、柔軟な使途に対応できる予備費の積み増しは納得できる。

 だが、災害時の緊急対応であっても、財政面の工夫や配慮はあって当然だ。当初予算案の組み替えによる単純な予備費増額が妥当だったのか、議論の余地があろう。

 政府は16日、震災対応の予備費を増やし、一般会計の歳出総額で112兆5717億円に上る24年度予算案を閣議決定した。26日召集の通常国会に提出する。予算案は昨年末に閣議決定済みであり、内容を変えて決定し直すのは異例と言える。

 この対応を財務省へ指示したのは岸田文雄首相だ。しかし、被災支援の財源確保に万全を期しながらも、ほかのやり方が取り得たのではないか。

 一つは、23年度予算の一般予備費がまだ4600億円程度残っている点である。9日には被災地の要望を待たずに物資を送る「プッシュ型支援」強化のため、約47億円の支出を決めた。年度内に必要となる資金は、残りの予備費で対応可能との見方が多い。

 二つ目は、24年度予算案に一般予備費とは分けて、物価高対策などに特定した予備費が1兆円盛り込まれていた点だ。どちらも現時点で支出が確定しているわけではないのだから、一般予備費を増額する分、特定予備費を抑制してよかった。

 なぜなら単純に予備費を加算した結果、歳入不足を補う新規の国債発行が35兆4490億円へ膨らんだからだ。主要国最悪の財政状況にあり、金利上昇局面を迎えている中で、財政面の配慮がそこには見えない。

 過去には、災害支援の財源確保で補正予算を速やかに編成した例がある。16年の熊本地震では、1カ月後に7千億円の予備費追加を柱とする補正予算案を決定、時間を置かずに国会で成立した。補正の編成は必ずしも時間を要するわけではなく、石川県知事も「数兆円規模で1カ月以内」の補正を政府に要望している。震災対応には野党も前向きな姿勢である点などを合わせれば、当初予算での増額とは別の選択肢が考えられた。

 通常国会は自民党派閥の裏金問題に端を発した政治改革が焦点であり、紛糾が十分あり得る。当初予算案への震災予備費の盛り込みは、それを見越して野党が抵抗しにくくする首相の狙い、との疑念すら呼びかねまい。

 迅速な災害対応は予備費の本領と言える。だが近年、新型コロナウイルス対応などで「政権のポケットマネー」のような予備費の使い方が常態化したのも事実だろう。経済協力開発機構(OECD)は今月公表の日本に向けた報告書で、予備費や補正予算への依存に警鐘を鳴らした。財政の深刻さに、海外の厳しい目が向けられていることを忘れてはならない。

 わが国は今後も地震や豪雨の天災が避けられない。その際に不安なく財政出動ができるよう、その健全化を急ぎたい。